資 料

株式会社三井住友フィナンシャルグループ
TNFDレポート作成

(2024年3月作成、4月公表)

背景・目的

三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)は2023年4月、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の枠組に沿って自然資本に関する考え方を示した、『SMBCグループ2023TNFDレポート』を国内の金融機関として初めて公表した。2023年9月に開示基準等を盛込んだTNFDの最終提言v1.0が発表されたが、SMBCグループのTNFDレポートは、その発表を待たずに公開された。

 

SMBCグループは、1998年に環境方針を策定以来、その時々の環境課題に対応するための方針、宣言を策定、重点課題を選定してきた(表1参照)。直近では、2020年より、気候変動が財務リスクに与える影響に関し、TCFDレポートとしてまとめ、公表している。その後、気候変動の次に財務リスクへの影響につき検討が必要な分野として自然資本を採上げることとし、2021年6月のTNFD設立を機に、TNFDレポートの作成をすすめてきた。

 

方針・重点課題 体制整備
1998 ・SMBCグループ環境方針を策定  
2014 ・SMBCグループの重点課題(マテリアリティ)として「環境」「コミュニティ」「次世代」を選定  
2018 ・パーム油農園開発、森林伐採事業に関する方針を公表 ・「サステナビリティ推進委員会」を設置
2020 ・経営理念を改定(「社会課題の解決を通じ持続可能な社会の実現に貢献する」を追加)
・「SMBCグループ サステナビリティ宣言」を公表
 
2021   ・グループCSuO(Chief Sustainability Officer)を新設
・取締役会の内部委員会として、サステナビリティ委員会を新設
2022   ・TNFDフォーラムに参画
2023 ・SMBCグループの重点課題(マテリアリティ)を「環境」「DE&I」「人権、貧困・格差」「少子化高齢化」「日本の再成長」に改定
・SMBCグループ環境方針を改定(自然資本への取組に関するスタンスを明確化)
・最初のTNFDレポートを公表
・企業のネイチャーポジティブ支援に向けた金融機関のアライアンス「Finance Alliance for Nature Positive Solutions」を設立(※)
表1:自然資本・生物多様性に関わるSMBCグループの方針・重点課題と体制整備

※MS&ADホールディングス、日本政策投資銀行、農林中央金庫とともに設立。                 出典)『SMBCグループ 2023 TNFDレポート』およびSMBCニュースリリース「重点課題(マテリアリティ)の改定について」(2023年4月)をもとに作成。

 

概要

本レポートでは、SMBCグループの事業と自然資本との関係性を確認、その上で当グループにとってのリスクと機会を抽出、リスク管理法の検討および、機会を捕捉するビジネスの検討(顧客企業のネイチャーポジティブ1)への取組支援の可能性等の検討)、という一連のプロセスを試行した。

1)自然資本の減少を食い止め、回復させること。

 

今回のレポートは、リスクを明らかにし、その管理方法を更新していくとの日頃のリスク管理プロセスのうち自然資本に特化し、かつ、リスクに加え自然資本に関わる機会について、事業活動との関係性を包括的に整理したものである。

 

TNFDでの開示推奨項目である「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の内容と、本レポートとの対応状況およびそれらのポイントは以下の通り。

 

TNFDにおける開示推奨項目 レポート該当章 対応状況のポイント 参照した原則/方法論/定義
1章 自然資本に対するSMBCグループの考え方を提示  
ガバナンス 2章 自然資本関連の取組に関する監督・執行体制の構築  
戦略 3章 ①自然資本と企業活動との関係性を「依存」と「影響」の観点から整理
②自然資本に関するリスク・機会への対応について整理
・ENCORE(※1)
・LEAPアプローチ(※2)のドラフト版
③各セクターの依存
・影響の度合いに関するヒートマップ作成
   
リスク
管理
4章 ①自然資本に関する事項をトップリスクとして抽出
②デューデリジェンス実施(顧客企業の非財務情報の把握による与信への定性的な活用・個別案件に対する環境社会リスク評価)
③自然資本に影響を与えるセクターへの方針策定
・ENCORE
・②では、エクエーター原則
指標・
目標
5章 サステナブルファイナンス実行額(2030年に累積50兆円 うちグリーンファイナンス20兆円)  
6章 今後に向けての展望  
表2:TNFDレポートの構成とポイント

1)ENCORE(Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure):自然資本分野の国際金融業界団体であるNCFA(Natural Capital Finance Alliance)等が開発した自然関連リスク分析ツール。157のセクターにおける企業活動の自然資本、生態系サービスへの依存度や影響度を整理・集約。

2)LEAPアプローチ:自然関連のリスクと機会を体系的に評価するためのプロセス。自然との接点を発見する(Locate)、依存関係と影響を診断する(Evaluate)、リスクと機会を評価する(Assess)、自然関連リスクと機会に対応する準備を行い投資家に報告する(Prepare)の4フェーズから構成される。TNFD枠組で提唱されたもの。

・なお、TNFDが自然関連の目標設定に際し参照するよう推奨している、SBTN(Science Based Target Network、科学に基づく目標設定を行う組織)の方法論については、SMBCグループの本レポート作成時に発表されていた、SBTNのガイダンスのドラフト版を参照した。

出典)三井住友フィナンシャルグループ ウェブサイト「TNFDへの対応状況」をもとに作成。

 

〇本レポートのポイントと課題

今回のレポートでは、ENCOREの考え方を使って、自然と企業活動の関係性を整理した。

 

金融機関であるSMBCグループは、自然資本との直接の関わりが深い事業活動をほとんど行っていない。しかし、投融資先の企業の事業活動は、自然資本に依存し、影響を与えている。この点に着目し、投融資先企業が依存している自然資本に悪影響が及んだ場合に、同グループにとってどのようなリスクがあるのかを分析、整理した。この部分が、今回のレポートのポイントであり、作成にあたって最も議論した部分である。たとえば、飲料メーカーの事業活動に必要な水資源が汚染されたり十分な水量を得られない、という状況が実際に起こり得るのか、起こるとした場合、どの程度の確率で起こるのかを明らかにすることによってはじめて、飲料メーカーに投融資している同グループにとってのリスクが明確になる。

 

投融資先のリスクがどの程度であるかを測る尺度としてLEAPアプローチが推奨されているが、投融資先からL(自然との接点を発見する)、E(依存関係と影響を診断する)、A(リスクと機会を評価する)、P(自然関連リスクと機会に対応する準備を行い投資家に報告する)のフローに沿ってリスク分析を行うには、投融資先から関連する詳細な情報を入手しなければならない。これらの入手が今後の課題である。そして、提供のあった情報をもとに、あらたに設定されるであろうグローバルスタンダードの指標を使用しつつ、リスク分析を深めていくことになる。

 

〇本レポート第3章の概要

上記ポイントのうち、今回のレポート作成で特に力を入れた、「第3章 戦略」の①と②に絞って以下で説明する。

 

「SMBCグループの自然資本に対する考え方、自然資本と企業活動との関係性に対する考え方」を整理

金融機関は、企業や個人との取引を通じて、自然との関係性を持つことになるため、自らの事業活動以上に、取引先の企業等の活動が自然資本にどのように「依存」し、自然資本に対してどのような「影響」を及ぼしているのか、という二つの観点から、自然資本と取引先との関係性を明らかにすることが重要である。

 

SMBCグループは、TNFD枠組で使用が推奨されている自然関連リスク分析ツール「ENCORE」を用い、「依存」・「影響」それぞれの観点で、自然資本が提供する生態系サービスと取引先との接点を分析している。

 

なお、TNFDレポートを作成するにあたり、TNFDの枠組、IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学・政策プラットフォーム)等関連する報告書等を参照しつつ、グループの今後の経営の在り方を再度議論し、次のようなグループの将来像を描いている。すなわち、ネイチャーポジティブに大きく貢献する産業への投融資やその他の方法(例:三井住友銀行と三井住友ファイナンス&リースの農業法人への出資、日本総合研究所によるコンサルティング等)によってグループとしての成長を目指す、という将来像である。

 

②自然関連のリスクと機会に対する考え方の整理

①において自然資本と投融資先企業との関係性を明らかにしたのちに、それを踏まえてそれら企業の「リスク」と「機会」の分析を行うことにより、金融機関にとっての自然関連の「リスク」と「機会」を評価している。

 

<リスク> 投融資先企業が自然に与えるリスクおよび自然環境悪化により企業が被るリスクは、自行のリスクとなる恐れがあると認識、その観点から、自然関連リスクについても、自行にとっての他の諸々のリスクと同等のレベルに引上げたうえで、自然リスク管理を検討した。

 

ただし、金融業界が、投融資先企業のサプライチェーン上のリスクを川上最上流まで把握するのは難しい。まずは、企業の側がどの程度追跡しているのかを明らかにする必要がある。追跡の度合いは業界ごとに異なると考えられる。具体的な分析は今後の課題である。

 

第3章で、自然への依存と影響の度合いを、ヒートマップを用いて可視化した。このマップで色の濃い、すなわち自然への依存・影響の度合いが高い投融資先は、SMBCグループにとってリスクが高い投融資先となるが、そういった投融資先と今後、対話を進めていくことになる。さらに対話を通じて、それら投融資先のネイチャーポジティブへの移行の可能性を検討するという方向性を目指す。また、対話により、投融資先企業がTNFDレポートを作成し、LEAPを使うことを期待している。そうしたプロセスを通して、サプライチェーン上のリスク分析がすすむものと考えている。

 

<機会> ヒートマップにおける依存・影響それぞれの重点分野を踏まえつつ、ネイチャーポジティブの機会が見込まれる分野を中心に把握。これにより、顧客企業による自然資本の保全・回復を後押ししていく。

 

取組を実施するにあたっての組織の方針や体制

レポート作成は、サステナビリティ企画部(人員40名)の3名が担当、リスク管理部門の2名が適宜確認した。レポート作成を決定後、発行まで8か月、レポート執筆に着手してから3か月で発行した。

 

取組の今後の計画・広がりについて

今後は、今回のレポート作成により抽出された課題について検討を深め、今後更新する発行するレポートにその検討内容を反映させていく。(課題の具体的な内容は、「課題と課題解決のヒント」を参照)

 

自然資本に関わるリスクおよび機会の観点で特に重視すべき自然資本・生態系サービスやセクターでの特定に努めていく。今回のレポートでは、TNFD枠組で指定される優先セクターのみを分析対象としたが、今後、分析内容の深化に向けた見直しを行いつつ、より精緻に重要度を見極めていく。

 

課題と課題解決のヒント、工夫した点、苦労した点

投融資先企業の自然関連のリスクと機会を明確にはできたが、当グループが被るリスクと、獲得可能な機会については明確にできていない。この点に関しリスク管理部門など関連部門との協議を継続して行う必要があり、引続き、この点に関し取組んでいく。

 

自社の自然関連リスクを明らかにしていくためには、投融資先企業の事業の影響が及ぶ自然環境について、投融資先企業から情報を得る必要がある。投融資先企業との対話を通じて、これらの情報を得たうえで、自然資本に関するグループのリスクを明らかにし、そのリスクの低減策の精緻化、および機会についてもその捕捉法の精緻化を目指す。

 

SMBCグループにとっての自然資本の重要性について、サステナビリティ企画部は当然のことながら認識しているが、今後は、営業店をはじめ他の部門へもその認識が浸透していくよう努めたい。今回のレポートは、グループ全体の自然資本に関する知見を深めるためのツールとしても活用できると考えている。また、自然資本をはじめ、気候変動、人権、人的資本等、様々な重要テーマがあるなかで、自然資本にどの程度比重を置いて当社グループの事業をすすめていくべきかについて、サステナビリティ企画部内でも、明確な方針はない。引き続き議論をしていく。

 

参考にしたWEBサイト等