(2024年3月作成、4月公表)
背景・目的
運用ポートフォリオのカーボンフットプリントを2030年までに半減させる中間目標を達成する方法としては、GHG(温室効果ガス)排出量の大きい企業への投資を控えることが挙げられるが、それでは地球全体の脱炭素の実現には繋がらない。地球全体の脱炭素化のためには、トランジションをサポートする金融の役割が不可欠である。ニッセイアセットマネジメント株式会社は、こうした考えを基に、2022年6月に国内企業のトランジションを支え、促していく「ニッセイ国内株式クラ イメート・トランジション戦略」ファンド(私募ファンド)を立ち上げ、運用を開始。
概要
同ファンドでは、排出量の大きな企業とともに、それらのトランジションを技術的にサポートする企業にも投資を行うことで、脱炭素へのトランジションをサポートする。排出量の大きな投資先企業には変革を通じた企業価値の向上を、技術的にサポートする投資先企業に対しては収益機会を捉えた成長を通じてポートフォリオの価値を高めていきたいとの意図がある。トランジションに向けて炭素排出量の大きな企業に投資を行えば、少なくともネットゼロの2030年目標達成にはネガティブとなり得るが、トランジションをサポートする金融の存在がなければ、ネットゼロには近づけない。これにより、一時的には運用資産の炭素排出量は増加することは否めないが、金融業界全体でサポートしていくことが、結果的にはネットゼロへの近道になると信じ、トランジションをサポートするもの。
ダイベストメントを行うことにより、ポートフォリオの持分GHG排出量は減るが、それによって投資先が排出するGHG排出量が減少するわけではないため、投資家としてダイベストメントは無責任であるとのスタンスである。
なお、同ファンドの最大の特徴は、GHG多排出産業に属する日本企業と、GHG多排出産業のトランジションに不可欠な技術的ソリューションを手掛ける日本企業の両方に投資し、対話を行う点である。
また、ニッセイアセットマネジメント株式会社では、同ファンドを「インパクトファンド」と位置付けている。
以下は、その概要である。
- ファンド設定時期:2022年6月
- 投資対象:国内株式
- 銘柄数:35—45
- 主な投資対象企業:炭素排出量の大きな企業、及び、脱炭素をサポートする企業
- 運用期間:特に定めず
適格機関投資家限定のファンド。株式への投資は、原則として信託財産総額の50%以上とするが、資金動向、市況動向等によっては上記のような運用ができない場合もある。
なお、同ファンドは現時点では日本生命グループ向けのもので、日本生命保険相互会社が、同ファンドに200億円の投資をしている。
実績
ポートフォリオの保有比率の構成イメージは下図のようになっており、2~3割程度がGHG多排出産業に属する企業、7~8割程度が技術的ソリューションを手掛ける企業である(下図参照)。
図:ポートフォリオの構成 イメージ
出典) Sustainability Report 2023
同ファンドはその設定から2023年12月現在の時点で1年半程度しか経過していないが、その中でも対話を通じた開示に関連し、一部効果が出始めている。以下はその事例である。
- GHG多排出産業:脱炭素の初期投資の重さを背景に政府の資金無しには対策が困難という立場を堅持する投資先企業も多い。一方、政府からの資金が100%確実ではない中、対話を通じ、政府からの資金がない場合を想定した脱炭素のシナリオ作成の必要性について訴えた結果、そうした開示を検討する会社が出始めてきた。そのような投資先企業に対しては、脱炭素に対する本気度があると認識し、追加投資を行う場合もある。
- 技術的ソリューションを手掛ける投資先企業:削減貢献量の開示がなかった企業もあったが、同ファンドのエンゲージメントの結果、それを開示する会社が出始めてきた。
取組を実施するにあたっての組織の方針や体制
同社では、約20名のセクターアナリストが企業との定例的な対話を行うことに加え、気候変動の対話担当専任者を配置している。同ファンドの運用者を含め、各担当者が密に議論を行うことで、対話の質・精度を高める取組を行っている。気候変動のトランジションは喫緊の重要課題であり、組織としても、資産運用会社のイニシアティブである、ネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアティブに加盟し、当社の持分排出量全体の約7割を占める約70社を重点対話企業と定め、対話を強化している。
取組の今後の計画・広がりについて
ニッセイアセットマネジメント株式会社は、ネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアティブに加盟しており、2022年5月時点での初期目標として、以下の目標を掲げている。
コミットメント・ステートメントでカバーされている資産の割合運用資産残高(1480億米ドル)の約60% (株式と社債の全て) |
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2030年に向けた持分排出量削減目標(2019年比)ベースラインは96 tCO2/百万ドルで、2030年目標は原単位ベースで50%削減。 |
表:ニッセイアセットマネジメント株式会社による脱炭素目標
出典) Net Zero Asset Managers Initiative “Nissay Asset Management”
同社では、今後もトランジション関連の商品を展開していくという方向性である。機関投資家のなかには日本生命保険相互会社を含めグリーン投資枠を設けている投資家も多い。例えば、日本生命保険相互会社については、2017‐2030年の脱炭素ファイナンス枠として3兆円の目標を掲げている。機関投資家は総じて脱炭素に関する意識が高いため同ファンドのような脱炭素・トランジション関連に関心のある投資家が多く、機関投資家の需要もある。
課題と課題解決のヒント、工夫した点、苦労した点
課題又は苦労した点としては、以下の点が挙げられる。
- 特に多排出産業については、個別の投資先企業へのアプローチには限界がある。具体的には、脱炭素に向けた取組を、一企業を超え、業界全体、さらには政府によるファイナンス含めた施策に期待せざるを得ない状況もある。
- Scope3の開示がまだ少ない。Scope3の開示がないと排出の全体像が見えてこない。現在は、Scope1及びScope2にフォーカスして、GHG排出削減の速度を見ている。
- 上場企業に対しては、ニッセイアセットマネジメントでなくても投資は可能であり、当社が投資を行う意味合いは企業とのエンゲージメントを通じて変容を促すことにある。これにより企業価値を高めることができれば、企業にも社会にも当社顧客にもプラスとなる。
- 個人投資家による脱炭素あるいはトランジション投資についてはあまり市場として素地が整っていないという現状がある。
上記の課題を解決する飛び道具はないが、工夫した点としては、以下が挙げられる。
- 海外の同業他社の情報も把握し、グローバルな思考を踏まえたエンゲージメントを実施すること。
- 政府や業界団体とも対話をしていくこと。
参考にしたWEBサイト等
- ニッセイアセットマネジメント株式会社へのヒアリング(IGESが2023年12月1日にオンライン上で実施)
- 21世紀金融行動原則 ウェブサイト「取組事例 ニッセイアセットマネジメント株式会社 156-FY2022-01」 (2023年12月1日アクセス)
- ニッセイアセットマネジメント株式会社(2022)「Sustainability Report 2022」(2023年9月22日アクセス)
- ニッセイアセットマネジメント株式会社(2023)「Sustainability Report 2023」 (2023年11月20日アクセス)
- 日本生命保険相互会社ウェブサイト (2022.6)「ニッセイ国内株式クラ イメート・トランジション戦略への投資について」 (2023年12月1日アクセス)
- 日本生命保険相互会社ウェブサイト(2023.3)「ESG投融資および脱炭素ファイナス枠における2030年目標の設定について」(2023年12月1日アクセス)
- Bloomberg ウェブサイト(2023.12)「ニッセイ国内株式クライメート・トランジションNAM2211:JP」 (2023年11月20日アクセス)
- Net Zero Asset Managers Initiative ウェブサイト(2022.5)“Nissay Asset Management” (2023年11月20日アクセス)
- 株式会社山陰合同銀行
- いちご株式会社
RE100企業として「2030年に再エネ比率50%」目標設定への賛同 - しんきん証券株式会社
「しんきんESG低炭素フォーカス日本株ファンド」の設定・販売 - 株式会社東京リアルティ・インベストメント・マネジメント
ESG課題に対する目標の改定 - 大和アセットマネジメント株式会社
「クリーンテック株式&グリーンボンド・ファンド(愛称:みらいEARTH)」の設定 - ニッセイアセットマネジメント株式会社
「ニッセイ国内株式クライメート・トランジション戦略ファンド」の立ち上げ - 住友生命保険相互会社
2050年ネットゼロに向けた取組 - 第一生命保険株式会社
ネットゼロへの取組 - 株式会社T&Dホールディングス
グループ長期ビジョンでの非財務KPI - 株式会社岩手銀行
Jブルークレジット® 販売仲介業務 - 株式会社日本政策投資銀行
DBJ-対話型サステナビリティ・リンク・ローン - 三井住友ファイナンス&リース株式会社
「サステナビリティ・リンク・リース」の取扱 - 株式会社三井住友フィナンシャルグループ
TNFDレポート作成 - 株式会社横浜銀行
「SDGS事業性評価」の取組~地域企業のサステナビリティ経営支援~ - 株式会社りそな銀行
「りそなSXフレームワークローン」の取扱い