(2024年3月作成、4月公表)
背景・目的
第一生命の親会社である第一生命HDでは、経営に重要な影響を及ぼす可能性のある予見可能なリスクを「重要なリスク」として特定し、そのリスクを踏まえた事業計画の策定を推進している。2019年度以降、気候変動に関するリスクを「重要なリスク」の一つとして選定し、リスク管理を強化している。
また、気候変動によって、中長期的な影響がもたらされる可能性があると認識し、シナリオ分析の結果に基づき、事業会社・機関投資家としてのコントロール策、事業としてのレジリエンス(強靭性)を高める取組を推進している。さらには、気候変動リスク・インパクトの認識のさらなる高度化に向けて、MSCI社の気候バリューアットリスク(CVaR:Climate Value-at-Risk)という手法で、政策リスクと機会、物理的リスクの分析を行うなどの取組も行っている。
第一生命HDでは、将来にわたって、すべての人々が安心に満ち、豊かで健康な人生を送り、幸せな状態であること、すなわちwell-beingに貢献するため、中期経営計画「Re-connect2023」にて、事業領域をwell-beingを構成する4つの体験価値に再編した。その中で特定された重要課題の一つとして、さらには上記のリスク管理の観点から、グループ全体でネットゼロへの取組を推進している。
以上のような背景と認識の下、2023年8月には「ネットゼロ移行計画」を策定、公開した。
概要
第一生命HDは、温室効果ガス(GHG)削減の目標として以下を設定している。 <事業会社として>
- スコープ1・2 2025年度50%削減、2040年度ネットゼロ(2019年度比)
- スコープ3(カテゴリ15以外、第一生命) 2030年度 30%削減、2050年度 ネットゼロ(2019年度比)
<機関投資家として>
- スコープ3(カテゴリ15、第一生命) 2025年 25%削減、2030年50%削減、2050年 ネットゼロ(2020年比)
- 気候変動問題の解決に資する投融資(第一生命) 2024年度末までに1兆円 以上
事業会社としての取組:第一生命HDでは、スコープ1・2は電気使用によるものが約8割を占めていたことから、省エネに加え「2023年度末までの100%再生可能エネルギー(RE100)化」を宣言、2022年度に1年前倒しで達成。引き続き、スコープ1+2のネットゼロに向けて、再エネの長期・安定調達に取組んでいる。
機関投資家としての取組:第一生命の気候変動問題ソリューションに向けた投融資の累計は、約7,100億円(2022年度末時点)であり、2024年度には1兆円達成を目標として掲げている。2022年度の取組としては、トランジション・ファイナンスに関する取組方針を策定した。
また、エンゲージメントを通じた投融資先企業の取組を後押している。GHG排出量上位50社に対し、ESGアナリストによる気候変動取組の分析・提言、1.5℃目標と整合的なGHG排出量目標の設定、目標達成へ向けた戦略の策定・促進・実施などを実施している。また、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosure、気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく情報開示の促進、生命保険協会やClimate Action 100+を通した協働エンゲージメントも実施しているほか、GFANZプリンシパルズ・ミーティングや傘下作業部会への積極的参加を通じたルールメーキングにも関与している。
実績
2022年度の実績は以下のとおり。
<事業会社として> (スコープ1・2): 83%削減(グループ)、89%削減(第一生命)(2019年度比) (スコープ3)(カテゴリ15以外、第一生命): 6%削減 (2019年度比)
<機関投資家として> (スコープ3)(第一生命の投融資):16%削減(2020年比)
取組を実施するにあたっての組織の方針や体制
第一生命HDでは、2021年4月以降、「グループサステナビリティ推進委員会」を中心としたサステナビリティ推進体制を構築している。Chief Sustainability Officer(CSuO)が委員長を務めるグループサステナビリティ推進委員会では、グループ方針・戦略や対外コミットメントを含む効果的な情報発信の検討、グループ各社における取組遂行状況のモニタリングなどについて、グループ横断的かつ超長期的な視点で議論しており、委員会にて議論された内容は経営会議・取締役会に報告・提言される。気候変動への対応としては、取組方針(機関投資家・事業会社の視点など)、保険事業・運用ポートフォリオのシナリオ・影響度分析の高度化、開示情報の拡充対応等が議論されている。
また、グループ中核会社の第一生命では社外委員が過半を占める「責任投資委員会」の審議を経て責任投資に関する方針等を策定するとともに、特に重要な内容については、取締役会や経営会議にも報告を行っている。責任投資委員会は、2名の社内委員と3名の社外委員の合計5名によって構成されている。また、実務担当者で構成される「責任投資会議」における進捗フォロー・議論等を通じて、資産運用部門全体の取組を推進し、PRIの年次アセスメント結果を活用してグローバル水準を踏まえた取組のレベルアップを実施している。
2022年度の取組としては、役員報酬評価基準に、CO2排出量削減の進捗を含むサステナビリティ指標を導入した他、2023年4月1日付けでChief Sustainability Officer(CSuO)を新たに設置した。
課題と課題解決のヒント、工夫した点、苦労した点
エンゲージメントの実施については、共通の課題を見出せるテーマについては、生命保険協会などを通じて連携した協働エンゲージメントを実施している。また国外への企業へのエンゲージメントについては、Climate Action 100+といった国際的な協働エンゲージメントイニシアティブを通じたアプローチを組合わせている。
また、一企業への働きかけのみならず、セクター横断の取組や、政府による取組も重要であることから、国内レベルでは行政の各種委員会等での意見発信を行うほか、GFANZ等のイニシアチブへの参加を通して業界と公的セクターを横断しての連携やルールメーキングにも積極的に関与している。
取組の今後の計画・広がりについて
今後に向けた優先課題として以下を特定している(「ネットゼロ移行計画」より一部抜粋)。
<機関投資家として>
- GHG排出量計測・目標設定の対象資産拡大
- 適切なGHG排出量データ管理体制の構築(GHG排出量データの取得・分析サイクルの早期化、排出量推移の将来シミュレーション等)
- GHG排出削減に向けたアプローチ手法の検討
- 投融資先へのエンゲージメントの実効性向上(業界特性や個社状況に応じた適切なアプローチ手法の検討、ネットゼロへの取組状況の分析、協働エン ゲージメントを含む効果的な対話手法の検討等)
- 気候変動解決に資する優良な投資候補案件の探索・選定の強化
<事業会社として>
- 長期的に安定調達可能な再生可能エネルギー調達手段への切替の検討
- 炭素吸収・除去等、残余排出量に対する対応策の研究
参考にしたWEBサイト等
- 第一生命ホールディングス(2023)「サステナビリティレポート 2022」(2024年3月5日アクセス)
- 第一生命ホールディングスウェブサイト(2024)「サステナビリティ」(2024年1月11日アクセス)
- 第一生命ホールディングス(2023)「ネットゼロ移行計画」(2024年3月5日アクセス)
- 第一生命保険(2023)「責任投資活動報告2023」(2023年3月5日アクセス)
- 第一生命保険へのヒアリング(IGESが2024年2月6日にオンライン上で実施)
- 株式会社山陰合同銀行
- いちご株式会社
RE100企業として「2030年に再エネ比率50%」目標設定への賛同 - しんきん証券株式会社
「しんきんESG低炭素フォーカス日本株ファンド」の設定・販売 - 株式会社東京リアルティ・インベストメント・マネジメント
ESG課題に対する目標の改定 - 大和アセットマネジメント株式会社
「クリーンテック株式&グリーンボンド・ファンド(愛称:みらいEARTH)」の設定 - ニッセイアセットマネジメント株式会社
「ニッセイ国内株式クライメート・トランジション戦略ファンド」の立ち上げ - 住友生命保険相互会社
2050年ネットゼロに向けた取組 - 第一生命保険株式会社
ネットゼロへの取組 - 株式会社T&Dホールディングス
グループ長期ビジョンでの非財務KPI - 株式会社岩手銀行
Jブルークレジット® 販売仲介業務 - 株式会社日本政策投資銀行
DBJ-対話型サステナビリティ・リンク・ローン - 三井住友ファイナンス&リース株式会社
「サステナビリティ・リンク・リース」の取扱 - 株式会社三井住友フィナンシャルグループ
TNFDレポート作成 - 株式会社横浜銀行
「SDGS事業性評価」の取組~地域企業のサステナビリティ経営支援~ - 株式会社りそな銀行
「りそなSXフレームワークローン」の取扱い