2019年10月31日
持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則 運営委員会メンバー一同
昨年7月の西日本豪雨に続き、今般の台風15号、19号及び21号は、各地に大きな傷跡を残した。特に19号がもたらした豪雨は同時多発的な水害を引き起こし、その規模と範囲は、我々の想像をはるかに超えていた。
人々は、近年の異常気象が人間の作り出した地球温暖化の影響だということに実感を持ち始めている。気象庁気象研究所が最新の気候モデルを使って行ったシミュレーションによれば、温暖化が更に進行すると、将来、世界全体の台風の発生数は現在より減少する一方で、日本の南海上を含む太平洋上での猛烈な台風(熱帯低気圧)の出現頻度は増加する可能性が高いことがわかった。[1]。科学的検証が不十分だ、経済活動は別だとして現実を直視しない姿勢のツケは、我々自身に降りかかってくる。このリスクを否定できる者がいるだろうか?
台風19号の暴風雨に襲われた10月12日の晩、携帯電話から間断なく流れる特別警報アラームに“3.11”の記憶を重ねた人も多かっただろう。“3.11”は、持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(21世紀金融行動原則)の完成間近に起きた。我々は起草作業を延長し、文章を練り直した。前文に「持続可能な社会の基本は、明日を不安に思うことなく今日一日が生きられることにあると考える」という一文を入れ、「不確実性を含んだ科学的知見であっても、環境や社会に重大な影響を及ぼす可能性が高いと考えられる場合」は、率直に耳を傾け、予防的アプローチに立つべきだと書き加えた。気候変動における物理的リスクの顕在化が誰の目にも明らかになってきた今、脱炭素社会に向け、予防的アプローチに基づいた金融行動をとることは、21世紀金融行動原則の原点である。
具体的方策については、今年3月、環境省とともに取りまとめた提言「ESG金融大国となるために取るべき戦略」に織り込んだ。その中で、21世紀の金融は持続可能なテクノロジーやインフラストラクチャーの整備など、イノベーションを促す資金の流れをつくるべきであること、そのためには多様な主体間でのパートナーシップとリスクシェアリングや社会的インパクトのある金融の実現が必要だと強調した。また、各主体のアクションリストにおいて、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)[2]に沿った情報開示の重要性にも触れている。
言うまでもなく、これらは着実に実行に移すべきである。しかし、昨今の甚大な被害は、従来のスピード感では遅きに失するかもしれないこと、また何より我々がこの問題に果敢に行動を起こさなければならないことを示唆している。
今般、21世紀金融行動原則・運営委員会は、こうした観点を踏まえ、署名機関ならびに金融業界全体に対する緊急の追加提言として、以下3点を取りまとめた。
1.我々は、気候リスクは国際的なシステミックリスクにつながる金融リスクとする国際金融当局の見解を支持する。金融の安定性の維持に万全の注意を払うことは、金融機関の最大の社会的責任であり、気候リスク管理とそれに基づく適切な行動、情報開示を推進する必要がある。
2.金融機関は、漠然とした気候変動対応ではなく、「緩和」[3]と「適応」[4]の意図を鮮明にし、成果として生みだすインパクト(ポジティブとネガティブ両方のインパクト)を明確に考慮した金融行動をとるべきである。
3.金融機関は、緩和のためのイノベーション、適応のための対応策について、これまで以上に積極的に資金を提供すべきである。また、水害等の自然災害対策、農林水産業対策等は、自治体との連携が欠かせないため、特に地域金融機関においては行動を加速させるべきである。
[1] 鬼頭 昭雄(2019年8月)「地球温暖化で台風はどうなる?」地球・人間環境フォーラム『グローバルネット』(2019年8月号)
[2] 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、G20の財務大臣・中央銀行総裁からの要請を受け金融安定理事会(FSB)の下に設置され、企業に対して気候変動がもたらすリスクと機会の財務的影響を把握し、開示することを推奨する提言を公表している。
[3] 緩和とは、気候変動の原因となる温室効果ガスの排出削減対策を言い、省エネ・再エネ・蓄エネの一層の普及等が挙げられる。
[4] 適応とは、既に生じている、あるいは、将来予測される気候変動の影響による被害の回避・軽減対策を言い、自立・分散型エネルギーの推進、グリーンインフラの活用などが挙げられる。
以上
※「脱炭素社会実現に向けた金融行動に関する緊急提言」PDF版はこちら [277KB]
持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則について
1年にわたる起草委員会(座長:末吉竹二郎氏)における議論を経て、持続可能な社会の形成のために必要な責任と役割を果たしたいと考える金融機関の行動指針として、2011年10月にまとめられた。署名金融機関は、自らの業務内容を踏まえ可能な限り7つの原則に基づく取組みを実践するとされている。業態、規模、地域などに制約されることなく、協働する出発点と位置付けられている。
本提言についての問い合わせ
21世紀金融行動原則 事務局(地球・人間環境フォーラム内)
Email: kankyo_kinyu@gef.or.jp URL https://pfa21.jp/
TEL:03-5825-9735 FAX:03-5825-9737