資 料

株式会社山陰合同銀行
再エネ発電事業等を営む「他業銀行業高度化等会社」ごうぎんエナジー株式会社の設立

(2024年3月作成、4月公表)

背景・目的

○カーボンニュートラル実現に向けた中長期目標を設定

カーボンニュートラル実現に向け、2012年に再生可能エネルギー(以下、再エネ)の固定価格買取制度(FIT制度)が開始されて以来、山陰地方においても発電事業者によるメガソーラー等の再エネ発電が行われるようになった。しかしこれら事業者の多くが県外資本であることから、山陰両県内で発電された電気およびその利益が山陰両県外に流出し、再エネ発電事業による山陰地方の経済活性化は限定的なものであった。

 

2020年10月、日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする(カーボンニュートラルにする)と宣言。この政府による目標設定を受け、山陰合同銀行は、課題先進地域とも言われる山陰地方の持続可能性を高めるために新たに取組むべきキーワードとして、「脱炭素・カーボンニュートラル」に注目し、その実現のための取組をすすめていくこととした。

 

まず2021年4月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同し、2021年12月には、カーボンニュートラル実現に向けたグループ全体の中長期目標を、「2030年度温室効果ガス排出量(Scope1,2)のネットゼロ」「2050年度サプライチェーンを含む温室効果ガス排出量(Scope1,2,3)のネットゼロ」と設定した。

 

〇主要な顧客企業を対象に脱炭素の取組状況を調査

脱炭素の取組をすすめていくため、山陰合同銀行は、山陰地方および関西・山陽地方の顧客企業が脱炭素・カーボンニュートラルに向けてどのような対応をしているか、どの程度関心を持っているかについて実態を把握することとし、2021年11月、主要な顧客企業を対象に「脱炭素の取組みと気候変動の影響に関する調査」を実施した。

 

調査の結果、脱炭素の取組を既に実施していると回答した企業は19.7%に過ぎないこと、なかでも山陰地方は、関西・山陽地方に比べて脱炭素経営の意識や実践がすすんでいないことが改めて浮き彫りとなった。

 

そこで、山陰合同銀行は、山陰地方においてカーボンニュートラルの早期実現が喫緊の課題であると再認識し、同行本店等での再エネへの切替えや、同行の顧客企業の温室効果ガス排出削減を支援するとともに、地域の主要銀行として顧客企業とともに再エネ供給量増加と地産地消の推進に取組むべきだとの方向性を行内で確認した。こうした方向性は、2019年5月に表明した同行の「サステナビリティ宣言」で示された、重点的に取組む5項目のうちの3項目「地域経済の持続的な成長」「豊かな地域社会の実現」「持続可能な地域環境の実現」と合致する。

 

〇再エネの地産地消構想を具体化へ

2021年改正銀行法(2021年11月施行)により、銀行の子会社の業務範囲に、「地域の活性化、産業の生産性の向上その他の持続可能な社会の構築に資する業務」が追加された。この改正に基づき、同年冬に、山陰合同銀行の経営企画部と地域振興部が中心となり、再エネ発電事業の構想を具体化、新会社設立に向け始動。2022年7月、再エネ発電事業等を営む100%子会社、ごうぎんエナジー株式会社(以下、ごうぎんエナジー)を設立した。再エネ発電事業に関し、金融機関が、銀行法に規定された会社(他業銀行業高度化等会社)1)を設立したのは、同行によるものが全国で初めてとなった。

1)銀行法第16条の2第1項第15号に基づく。金融庁「 中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 令和5年6月」を参照。 (2024年2月2日アクセス)

 

なお、会社設立を前提に、設立前から同行が進めていたカーボンニュートラルに向けた取組は以下のとおり。

  • 環境省が募集する第1回脱炭素先行地域に、米子市、境港市、ローカルエナジー株式会社と共同提案を行い、2022年4月に選定された。
  • 2022年5月、ごうぎんエナジー立上げ予定につきプレスリリースし、そのタイミングで、山陰地方のすべての地方公共団体(40団体)に対して、カーボンニュートラルを目指した協働を提案した。
  • 上記の提案に関心を示した地方公共団体の一つが、松江市であった。そこで2022年6月、松江市、そして松江市内の主要な電力供給事業者である中国電力株式会社と「カーボンニュートラルに関する連携協定書」を締結した。

 

年月 事項
2019.5 「サステナビリティ宣言」を表明
2021.4 TCFD提言に賛同
2021.10 サステナブルファイナンスに係る長期目標「2021~2030年度 累計実行額1.5兆円、うち環境ファイナンスの累計実行額5,000億円」の設定
2021.11 主要取引先を対象に「脱炭素の取組みと気候変動の影響に関する調査」実施
2021.12 グループ全体としてのカーボンニュートラルの実現に向けた中長期目標を設定
2022.4 第1回脱炭素先行地域に選定(提案者:米子市、境港市、ローカルエナジー㈱、山陰合同銀行)
2022.6 松江市および中国電力㈱と「カーボンニュートラルに関する連携協定書」を締結
2022.7 ごうぎんエナジー設立
表:ごうぎんエナジー設立までの経緯

出典)山陰合同銀行ウェブサイト ニュースリリース(2021年10月、2022年4月、同年6月)、『山陰合同銀行統合報告書2023』およびヒアリングをもとに作成。

 

概要

ごうぎんエナジーは現在、再エネの発電事業に特化している。再エネの小売事業については、地域の複数の新電力が豊富な実績とノウハウを積上げており、連携して電力需要家に再エネを供給する方針であることから、当面行わない。

 

発電事業の内容は、取引先の企業が所有する不動産(建物屋根、未利用地等)にごうぎんエナジーの資金で太陽光発電設備を設置、発電した電気を取引先が購入することを契約するというPPA(Power Purchase Agreement:電力販売契約)2) 事業である。

2)PPA: Power Purchase Agreementの略。電力販売契約という意味で、第三者所有モデルとも呼ばれる。電力需要家が所有する建物や土地にPPA事業者が無償で発電設備を設置し、発電した電力を電力需要家が購入し自家消費用電力として使用するスキーム。(山陰合同銀行サステナビリティレポート2023より)

 

山陰地方の山陰合同銀行の取引先を中心にPPA事業の提案を行っている。各支店の行員が取引先に発電設備の設置を提案、取引先が関心を持った場合、同行の地域振興部が情報を整理した上でごうぎんエナジーにトスアップし、具体的な提案につなげている。2023年12月19日時点で契約に至った案件は5件である(下記、「実績」参照)。

 

公共施設へのPPA事業については、環境省の脱炭素先行地域に選定された4市3地域を中心に、官民連携で事業をすすめていく(「実績」参照)。

図:ごうぎんエナジーの事業イメージ
出典)『山陰合同銀行サステナビリティレポート2022』

 

実績

山陰地方の顧客企業を中心に提案活動を行った結果、関心を示した企業は案件にして500件にのぼる。このうち400件が山陰地方の企業である。このように、カーボンニュートラルの取組に高い関心がみられるが、こうした案件のなかには、屋根面積が小さいあるいは電気の消費量がほとんどないためPPA事業としては採算があわないケースや、発電設備設置のための強度が不十分な建物等、PPA事業を成立させる条件をクリアしていない案件が一定程度あったことから、事前の情報収集の精度を上げるべくヒアリングシートの改定等を随時行っている。

 

初の契約は2023年8月に取引先の2社と締結された。松江市内の建物の屋上に太陽光発電設備を設置、各設置場所で使用される年間電力量のそれぞれ21.5%、7.3%相当を賄う。電力供給開始はそれぞれ2023年10月、2024年2月である。

 

この2件に続き2023年11月には、鳥取市内および松江市内の取引先工場の屋根を、太陽光発電設備の設置場所としたPPA事業が成約に至った。発電した電力は、前者は、工場の年間使用電力の約3割になると見込まれ、工場の使用電力の一部として自家消費することに加え、工場の従業員や会社間で共用する電気自動車(EV)にも使われる。後者については、工場の年間使用電力の約14%相当が太陽光発電で賄われる見込みである。

 

地方公共団体との連携による、公共施設での発電事業は、環境省の脱炭素先行地域に選定された4市3地域(米子市・境港市、鳥取市、松江市)を中心にすすめる。2023年度末に最初の案件が稼働する見込みである。

 

取組を実施するにあたっての組織の方針や体制

ごうぎんエナジー設立に中心的な役割を果たしたのは、経営企画部と地域振興部である。経営企画部は子会社設立業務に携わり、地域振興部は新事業の立上げや脱炭素先行地域づくり事業等の実務に携わった。新会社設立後は、ごうぎんエナジーと地域振興部が、地域の関係者と協議しつつPPA事業をすすめている。

 

設立時に地域振興部から数名がごうぎんエナジーに異動となった。現在のごうぎんエナジーの構成員は8名である(非正規雇用含む)。

 

取組の今後の計画・広がりについて

○太陽光発電以外の再エネ取扱を検討

事業化までのプロセスが容易な太陽光発電を中心に当面の契約案件を増やしていく計画であるが、地域資源を有効活用することで再エネ電源を多様化することも同行業容の拡大並びに地域脱炭素の実現には重要であると認識している。鳥取市での脱炭素先行地域事業では、小水力やバイオマス発電が計画されており、知見を高める好機と捉えている。

 

○J-クレジットを活用した地域脱炭素の取組を他社との連携により推進

山陰合同銀行は、2011年以降、J-クレジットの仲介業務を行っており、仲介実績は累計で10,000t-CO2を超えている。2023年3月には、環境ビジネスのバイウィルと「カーボンニュートラルの取組に関する連携協定書」を締結、J-クレジット等の創出支援も開始している。今後、ごうぎんエナジーによる再エネ発電により創出されるJ-クレジットを有効活用することで、カーボンニュートラルの取組が加速化できないか検討していく。

 

○脱炭素先行地域づくり事業の3事業に参画

以下の3事業に山陰合同銀行は共同提案者として参画しており、事業化に向けた取組を進めていく。同事業において、ごうぎんエナジーはPPA事業を中心とした再エネ創出を担当する。なお、他地域においても地域脱炭素・カーボンニュートラルの実現に向けた官民連携をすすめる。

 

  • 「地域課題解決を目指した非FIT再エネの地産地消と地方公共団体が連携したCO2排出管理によるゼロカーボンシティの早期実現」(米子市、境港市、ローカルエナジー、山陰合同銀行)(2022年4月選定)
  • 「RE:Birth(再エネ創出)で進める地域脱炭素と地域のRebirth(進化・再生)」(鳥取市、とっとり市民電力、山陰合同銀行、鳥取環境大学)(2023年4月選定)
  • 「国際文化観光都市・松江」の脱炭素化による魅力的なまちづくり ~カーボンニュートラル観光~(松江市、山陰合同銀行、ごうぎんエナジー、中国電力、ほか)(2023年4月選定)

 

課題と課題解決のヒント、工夫した点、苦労した点

各支店から情報提供される顧客ニーズは多いが、こうした情報のなかには、太陽光発電設備が設置可能な面積や使用電力量が僅少なためPPA事業としては採算があわないものや、発電設備設置のための強度が不十分な建物等、PPA事業を成立させる条件をクリアしていないものが一定程度ある。また、電力会社からエネルギーを調達した方が安価となる場合や電力需要家において10年以上の事業リスク(電気料金が固定化されるメリット・デメリット、中途解約時の設備買取等)を抱えることになる点も障壁となり、契約締結に至らないケースも出ている。価格だけの動機では進展しにくいことから、話を進めていくうえでは、脱炭素・カーボンニュートラルの実現による持続可能な社会を地域全体で目指すことの重要性を顧客企業と共有することが必要と認識している。

 

事業開始から間もないため事業の成敗を述べる段階ではないが、PPA事業に対し500件の相談があったことは、地域の顧客企業も気候変動問題に危機感を持ち始めたことの表れである。その想いを形にするためには再エネ創出が不可欠であり、その役割を担う会社を設立したことは間違っていなかったと確信している。

 

脱炭素先行地域づくり事業のような連携事業では、事業の提案段階から金融機関が関与することが重要と考えている。初期段階から共同提案者と情報共有をすると、案件を具体化する段階で資金ニーズが生じた際に、金融面での円滑な支援が可能となるためである。

 

世界全体が取組まねばならない「カーボンニュートラル」の課題に対し、山陰合同銀行は金融機関としては初めて新会社設立というかたちで取組を始めた。これまでの経緯を地域金融機関と共有し、それが契機となって取組が広がっていけば、カーボンニュートラルが加速していくのではないかとの同行の経営陣の考えを、行員は共有している。そのため、他行からの情報交換の依頼にはすべて対応している。

 

参考にしたWEBサイト等

※アクセス日はいずれも2023年12月18日