21世紀と金融
「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則」の誕生は誠に喜ばしい。日本の金融にとって歴史的快挙である。では、なぜ、今「原則」なのか、その背景を考えてみたい。
改めて言うまでもなく、今ほど日々の暮らしが便利になった時代はない。今ほど人類がパワーを手に入れた時はない。これもあれも20世紀の経済発展のお蔭である。
その一方で、地球温暖化や生物多様性の問題、貧困や格差の拡大などかつて人類が経験したことのない深刻な地球規模の問題を発生させたのも同じ20世紀である。
不思議である。なぜ、20世紀は豊かさの陰で未曽有の問題を引き起こしてしまったのだろうか。
答えは明白である。それは20世紀の経済の在り方が間違っていたからである。無論、経済そのものがいけなかったのではない。経済の「成長の在り方」が間違っていたのである。
とすれば、21世紀の使命は20世紀が残した問題の解決である。なぜならば、それらの問題の解決なしには将来に明るい希望を持てないからだ。
では、どうやって問題の解決を図るのか。それには成長至上主義に陥り外部不経済を無視し続けた20世紀型経済を、より長期的視点に立った持続可能な経済に入れ替えるしかない。
そこで金融の登場である。そもそも、金融の役割は「社会が必要とするところにお金を流す」ことだ。然も、扱うお金は自分のお金ではなく「社会のお金」だ。さればこそ、一層その責任の重さが増す。
その「金融の根源的機能」と「21世紀の使命」を重ね合わせる時、これからの金融の役割は明らかとなる。
それは地球や社会の「問題解決に本業を通じて取り組む」ことである。然も、そうすることが金融自身の発展にも繋がる。
元々、金融の責任は重い。なぜならば、金融の判断一つで、人々の生活や産業や社会、そして、国までもが変わり得るからである。
加えて、先の大震災である。分水嶺に立たされた日本は厳しい選択を迫られている。もし、日本が勇気をもって賢い選択をすれば陽は再び昇る。その作業において汗をかく。これが金融に求められる新たな責任である。
こう考えてくると、日本の金融が担うべき役割と責任の重さに粛然となる。
さて、この原則は金融で働く方々の熱い思いの結実である。一語一句がゼロからの手作りである。だからこそ、多くの金融機関に署名され、多くの金融人に実践して頂きたい原則である。
最後になりましたが、関係された皆さんに心からの感謝と尊敬の念を捧げるとともに、日本とその金融、ひいては21世紀に幸多からんことを切に祈ってやみません。
2011 年 10 月
末吉 竹二郎
環境金融行動原則起草委員会 委員長
(国連環境計画金融イニシアティブ特別顧問)