(2024年3月作成、4月公表)
背景・目的
日本政策投資銀行(以下、DBJ)は、2004年に環境格付融資の取扱いを世界で初めて開始して以来、サステナビリティ評価認証融資の提供を通じてサステナビリティ分野に関するノウハウを培ってきたが、2020年には新たに、DBJ-対話型サステナビリティ・リンク・ローン(以下、SLL)の取扱いを開始した。その第一号案件は2020年12月に公表しており、これまでに13件の案件を実行している(2023年10月1日時点)。
DBJサステナビリティ 評価認証融資 | 第1号案件 契約年 | 金額(累計) | 件数(累計) | 件数 (2022年度) |
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環境格付融資 | 2004 | 1兆8,022億円 | 786件 | 38件 |
BCM格付融資 (※) | 2006 | 5,763億円 | 440件 | 19件 |
健康経営格付融資 (※) | 2012 | 3,795億円 | 282件 | 30件 |
計 | 2兆7,580億円 | 1,508件 | 87件 |
※BCM(事業継続マネジメント)格付融資:防災および事業継続への取組が優れた企業を評価・選定する融資メニュー ※健康経営格付融資:従業員の健康配慮への取組に優れた企業を評価・選定する融資メニュー 出典)https://www.dbj.jp/ir/disclosure/ をもとに加筆
特徴
DBJ-対話型SLLは、借入人との「対話」に重点を置いている。DBJは、SLLを通じて借入人と十分な対話を行い、借入人のサステナビリティ経営の高度化を動機付ける最適なサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(以下、SPTs)の設定を模索することで、借入人の持続可能な成長のための支援を行っている。特に借入人の内部レビュー(詳細後述)に伴走することで、借入人のサステナビリティ戦略に関する高密度な対話を実施し、エンゲージメントの機会とすることを重視している。
一般的にSLLでは、SPTsの達成状況と融資条件を連動させるインセンティブをつけるため、例えばSPTsを達成したら金利を低下させるなど、短期的には貸付人のデメリットになる場合もあるが、適切なSPTsへの動機づけを行うことで、長期的には借入人の持続的な企業価値向上の支援に繋がるものと捉えている。
概要
借入人の事業戦略やサステナビリティ戦略を踏まえ、適切なSPTsの設定に向け、複数回にわたり対話を行う。
レビューの方法には、外部機関へ評価を委託する「外部レビュー」と、借入人自身が自己評価を行う「内部レビュー」があり、内部レビューの場合の対話の流れは以下のとおり。
出典)https://www.dbj-sustainability-rating.jp/sll/process.html
1) SPTs案の提出 借入人による設定したいSPTsの検討、1次案としてDBJに提示。
2) SPTs等の検討 借入人によるSPTs案を踏まえ、サステナブルソリューション部が借入人との対話を重ねながらサステナビリティ経営の見える化を行い、借入人とともにSPTsを選定。レビュー及びレポーティング方法についても検討。
3) インタビュー SPTsとレポーティングの方法の決定後、サステナブルソリューション部がSLLに関する原則・ガイドラインへの準拠性の観点からインタビューを実施。
4) 対話報告書の提示 インタビューを踏まえ、原則・ガイドラインへの適合性の確認結果をサステナブルソリューション部が「対話報告書」としてまとめ、借入人に提供する。「対話報告書」をもとに、借入人が自己評価結果を作成。 内部レビューは13件中11件(2023年10月1日現在)と大部分を占めている。内部レビュー形式を通じた借入人との高密度な対話と、対話を踏まえた対話報告書の作成が、DBJ-対話型SLLの大きな特徴となっている。
5) 融資実行 融資実行と合わせ、プレスリリース及び対話報告書を公表。
6) レポーティング 各原則・ガイドラインに基づき、融資期間中に年1回、SPTsの達成状況について報告を受ける。
取組を実施するにあたっての組織の方針や体制
SPTsの選定やレビュー等のプロセスは、営業・財務審査等を行う部署から独立した組織であるサステナブルソリューション部(約25名)が担当。2004年の環境格付融資の取扱い開始以来、1,500件以上になるサステナビリティ評価認証融資の実績の中で、借入人と非財務面に関する対話を実施してきた。なお、サステナブルソリューション部は、サステナビリティ評価認証融資や対話型SLL等、借入人の非財務面に係る支援を行う商品について、企画から実施までを専任で担当する部署である。
取組の今後の計画・広がりについて
対話型SLLを組成するにあたっては、内部レビューによる借入人との対話を通じて借入人の事業戦略・サステナビリティ戦略にとって重要なSPTsを借入人とともに考え、最適なSPTsの達成に向けた動機づけとしてSLLを活用することを目指している。このプロセスには対話のための時間を要するが、DBJにとっても借入人との貴重な対話機会であり、SLLを活用して借入人のサステナビリティ経営の更なる支援に繋げていきたいと考えている。
課題と課題解決のヒント、工夫した点、苦労した点
借入人にとっての野心的かつ有意義なSPTsの設定にあたっては、環境問題や人権問題を始め、変化の速度が速く裾野も広いサステナビリティ分野の最新動向を、即時的かつ的確に把握することが課題であると認識している。
参考にしたWEBサイト等
- 日本政策投資銀行『DBJグループ統合報告書2023』
- 日本政策投資銀行ウェブサイト「DBJ-対話型サステナビリティ・リンク・ローン プロセス」
- 日本政策投資銀行ウェブサイト「対話型サステナビリティ・リンク・ローン利用企業一覧」
- 日本政策投資銀行ウェブサイト「対話型サステナビリティ・リンク・ローン概要」
- 日本政策投資銀行ウェブサイト「BUSINESS REPORT サステナビリティ×DBJ」
- 21世紀金融行動原則 ウェブサイト「取組事例 日本政策投資銀行 007-FY2022-07」 ※アセス日はいずれも2023年9月29日
- DBJへのヒアリング(地球・人間環境フォーラムが2023年10月11日にオンライン上で実施)
- 株式会社山陰合同銀行
- いちご株式会社
RE100企業として「2030年に再エネ比率50%」目標設定への賛同 - しんきん証券株式会社
「しんきんESG低炭素フォーカス日本株ファンド」の設定・販売 - 株式会社東京リアルティ・インベストメント・マネジメント
ESG課題に対する目標の改定 - 大和アセットマネジメント株式会社
「クリーンテック株式&グリーンボンド・ファンド(愛称:みらいEARTH)」の設定 - ニッセイアセットマネジメント株式会社
「ニッセイ国内株式クライメート・トランジション戦略ファンド」の立ち上げ - 住友生命保険相互会社
2050年ネットゼロに向けた取組 - 第一生命保険株式会社
ネットゼロへの取組 - 株式会社T&Dホールディングス
グループ長期ビジョンでの非財務KPI - 株式会社岩手銀行
Jブルークレジット® 販売仲介業務 - 株式会社日本政策投資銀行
DBJ-対話型サステナビリティ・リンク・ローン - 三井住友ファイナンス&リース株式会社
「サステナビリティ・リンク・リース」の取扱 - 株式会社三井住友フィナンシャルグループ
TNFDレポート作成 - 株式会社横浜銀行
「SDGS事業性評価」の取組~地域企業のサステナビリティ経営支援~ - 株式会社りそな銀行
「りそなSXフレームワークローン」の取扱い