ウイスキー原酒在庫を担保とした動産担保融資(ABL)の組成
~社内ビジネスコンテストのアイデア実現により事業者を支援~
─三井住友ファイナンス&リース 株式会社─
概要
- 三井住友ファイナンス&リース株式会社(以下、SMFL)は、我が国の有望な輸出産業となっているウイスキー事業に着目し、①我が国の農林水産輸出の拡大、②循環型ビジネス・地産地消の促進、③観光ビジネスの成長に貢献することができると考え、本取組に至った。
- ウイスキーとして表示・販売するためには原酒を最低3年以上熟成させる必要があることから、事業者は販売までに長期間を要し、手元資金不足という課題を持つ。自己資金がなく金融機関の支援を十分に受けられない場合、事業者は短期熟成品の販売、樽の先行権利販売(オーナーズカスク)などにより手元資金を確保することとなる。一方でウイスキーの品質が十分に安定するためには一般に10年前後の熟成期間が望ましく、原酒を将来に向けて温存するニーズがある。
- そこでSMFLは熟成中の原酒在庫の将来価値を評価し、その価値を担保とした動産担保融資(ABL)により長期資金を提供することで、手元資金の課題を解決するとともに中長期的な原酒の温存を促し、品質向上の機会を提供した。
- 取組の重要なポイントとなったのは以下のとおり。
- ウイスキーマーケットの中長期的な需給予測
- 将来有望なウイスキー事業者の発掘と見極め
- ウイスキー自体の品質の評価
- 事業者との強固な信頼関係の構築
- 取組を実施するにあたっての組織の方針や体制は以下のとおり。
- 2021年に社内ビジネスアイデアコンテストに応募した社員2名を中心にチーム発足、2022年4月より活動を開始した。各人の所属部署の責任者が新規事業に挑戦することを応援し、本来業務への従事時間を配慮・調整して活動を続けた。
- 事業者の見極めにあたっては社員2名の意見を重視し、与信にあたっては一般的な企業の財務内容の評価だけではなく、事業性投融資判断を専担する部署との間で対話を繰り返し、原酒が生み出す将来価値に着目した評価の仕組みとした。
- 取組にあたり工夫した点は以下のとおり。
- 廃棄物の処理方法等の環境への配慮、地域社会への貢献の姿勢を総合的に勘案して事業者を選別した。
- 導入設備、製造経験、製造方針等をもとにSMFL独自の良質なウイスキー事業者の判断基準を作成した。
- 酒税法に基づく厳格な製造・販売・在庫の数量管理と報告義務に着目してABL担保物件のモニタリングに要する事業者の報告負荷を軽減する仕組とした。
実績
- 第1号契約として有限会社津崎商事(大分県竹田市)向けに熟成中の原酒在庫を担保としたABLを実行(取組額は非開示)。
「21世紀金融行動原則」の7つの原則への対応とアピールポイント
原則(1)
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我が国金融機関の企業向け融資は従前より不動産担保や個人保証に依拠している。しかしながら資金を調達しようとする企業には十分に不動産を保有していない企業も多く、不動産を中心とした担保の不足が中小企業の借入の妨げとなっている。また個人保証の提供は一般的な金融慣行となっているが、中小企業が企業収益から返済できない場合は個人保証の部分が実行され、経営者が所有する不動産や預貯金を失い、再起が困難になりかねない。こうした背景から不動産担保や個人保証に依拠しない資金調達を拡大することが期待されてきた。 本件ABLは中小企業の資金調達多様化の観点から、リース業で培ったモノへの知見を駆使し、ウイスキー事業の特性をふまえ研究・実行した。本件を契機としてSMFLはABLの更なる拡大を検討し、また今後地域金融機関との協調融資を検討する等、中小企業の資金調達に貢献したいと考えている。
原則(3)
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本件ABLを実行した有限会社津崎商事は大分県初のモルトウイスキー蒸溜所であり、「ウイスキー蒸溜所を中心とした地方創生モデル構築へのチャレンジ」をビジョンに掲げている。SMFLもまた経営理念・経営方針を示す「SMFL Way」のOur Vision Vision(私たちの目指す姿)で「SDGs経営で未来に選ばれる企業」を掲げ、日本各地で地方創生に資する事業を展開してきた。本件取組を契機としてウイスキー、ABLに対する知見をより深め、SMFLが持つ幅広い金融ソリューションやサービスの提供を通じ、地方創生はじめ社会課題の解決に貢献したいと考えている。
原則(4)
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SMFLは2019年より社内のビジネスアイデアコンテストである「シードコンテスト」を開催し、新規事業の創出に取組んできた。本件取組は同コンテストのアイデアが実現に至った初の事例となる。意欲ある多様な社員が活躍できる環境を作り、一人ひとりのチャレンジを応援しともに成長する企業を目指している。
選定理由
- 地産地消の循環型ビジネスにもなりうるウイスキー事業に着目したABLの組成がユニークであり、金融機関が価値を理解した上で融資に導くというリース事業としてモデルになるものである。
- 社内のアイデアコンテストに応募した2名の社員中心に発足したことは、社員のチャレンジを応援する風土形成やエンゲージメントのモデルとなる。
- 無形資産のひとつである発酵食品は日本に数多く存在するため、ウイスキー以外の食品への横展開が期待できる。日本の食料全体に広がれば、我が国の第一次産業への寄与にもつながるといった更なる可能性も秘めた取組として注目に値する。
以上から、環境大臣賞に選定する。
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