地域脱炭素及び地域内経済循環の実現に向けた
再生可能エネルギー関連事業の展開 ─株式会社 栃木銀行─
概要
1.取組の経緯と概要
- 株式会社 栃木銀行は、2019年度~2021年度において、環境省事業「ESG地域金融促進事業」に参画し、地域事業者や自治体等と「地域プラットフォーム」を形成。地域におけるステークホルダーとの対話を通じて、潜在する地域資源の発掘や地域課題の解決に向けた新たな事業の創出に取組み、対話を重ねていく中で地域における以下の大きな課題を認識した。
- 地域内経済循環の創出に向けた課題
電気やガソリンなどのエネルギーを地域外から購入していることが、地域経済にとって大きな資金流出ポイントとなっている。 - 地域の脱炭素化に向けた課題
再生可能エネルギーの導入をはじめとした脱炭素経営への転換に対する費用が、地域事業者にとって大きな負担となっている。
- 地域内経済循環の創出に向けた課題
- これらの課題に対し、地域金融機関自らが再生可能エネルギー事業を展開し、地域社会や取引先企業の脱炭素化への取組を支援することが、栃木県並びに近隣他県の脱炭素社会の実現と、栃木銀行が目指す「環境や社会課題を考慮した地域経済の好循環サイクル」につながると考え、PPA(Power Purchase Agreement:電力販売契約)事業に関する高い運営ノウハウを持つ株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ(以下、IGS)と連携し、2023年3月、IGSとの共同出資により、他業銀行業高度化等会社「株式会社クリーンエナジー・ソリューションズ(以下、CES)」を設立し、再生可能エネルギー関連事業を開始した。
- 地域金融機関によるPPA事業の取組みには、地域社会に対する数多くの意義があると認識し、CESでは現在「オンサイトPPAを通じた地域企業に対する再生エネルギーの導入」を中心に展開している。
2.地域金融機関がPPA事業に取り組む意義(項目の番号は下記スキーム図に対応)
- ① 地域に根差す金融機関がPPA事業に取組むことで、地域における新たな再生可能エネルギーの地産地消を促進することができ、域外からのエネルギー購入量を削減し、域内経済へ資金を還流することができる。
- ② 国際的な社会情勢等によるエネルギー価格の変動・高騰に対し、PPAによって事業者が支払う電気料金が長期間固定化されるため、企業経営の安定化及び持続的成長に貢献できる。
- ③ オンサイトPPAでは、PPA事業者が所有する太陽光パネルを企業の施設の屋根に長期間(CESでは20年間)設置するため、PPA事業者は、パネルを設置する企業の事業継続性を評価(事業性評価)し、設置可否の判断(与信判断)をする必要がある。大手PPA事業者では、地域における中小企業の事業性評価を行うための情報が不足しているため与信判断が難しく、地域の中小企業に対するPPAが普及しない要因となっている。地域の中小企業と永年取引し、事業の内容を熟知する地域金融機関がPPAに取り組むことで事業性評価及び与信判断が可能となり、地域企業における再生エネルギーの普及に貢献することができる。
- ④ PPA事業では、太陽光パネルをはじめとしたアセットをPPA事業者が所有するため多額の投資が必要となる。また、経費が先行し当面は赤字計上となる等の理由により、大手企業以外の地域企業がPPA事業に取組むことが難しいが、地域金融機関が自らの資本を活用することで、地域におけるPPA事業が可能となる。
- ⑤ 太陽光パネルの設置や修繕等の関連工事を地域の事業者が担うことにより、地域事業者の売上貢献及び資金の域内循環創出に貢献することができる。
- ⑥ 脱炭素を切り口として取引先が抱える他の課題も聞くことができ、次なる課題解決ニーズを集めることにより、新たな事業創出につながる。
3.今後の展望
- 将来的にはオフサイトPPA事業や、太陽光以外の再生可能エネルギーへの展開のほか、「地域資源の循環を促進し、持続可能な地域発展に貢献する」というCESの経営理念に基づき、森林保全をはじめとした自然資源の維持・改善を通じた資源循環や、Jクレジットの創出・仲介を通じた環境価値の地域循環等、地域へのポジティブインパクト創出も考慮しながら、地域脱炭素や域内経済循環に向けた多面的な展開を検討している。
実績
- 2024年2月末時点(事業開始後約11カ月時点)において、県内大手薬品小売企業における複数店舗の設置契約を締結する等、契約社数7、契約施設数49、発電容量約10,000kw(うち、発電を開始した施設数7、発電容量約2,000kw)、年間CO2削減量約4,000t。
- 当面の目標として、発電容量50,000kw、年間CO2削減量約20,000t(一般家庭約10,000世帯分)を掲げている。
該当原則
原則1 原則3 原則5
選定理由
- 課題が多く大企業でも仕掛け難いとされている、地域レベルのPPA事業を地域金融機関が主導しているという点において評価できるモデルである。
- 「ESG地域金融促進事業」から着想を得て、事業化まで踏み込んだ好事例で、地域金融機関ならではのノウハウを活用し地域のレジリエンスにも貢献している。
- また、今後の計画として、更なる再生可能エネルギー普及に向けた展開や、自然資源の維持・改善や、資源循環も検討している点が期待され、選定委員長賞に選定する。
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