「21世紀金融行動原則」に署名している金融機関は、7つの原則にのっとりさまざまな取組を展開しています。このような取組の裾野を広げ、先進的な取組の向上を図るため、2014年度から最優良取組事例を選定、環境大臣賞として表彰しています。また、2017年度より従来の大臣賞を「総合部門」とし、新たに「地域部門」を設置。大臣賞に準ずる優れた取組を選定し、「特別賞」として21世紀金融行動原則運営委員長賞として表彰しています。
2021年度最優秀取組事例の募集に先立ち、2020年度環境大臣賞 総合部門を受賞された三菱UFJ信託銀行株式会社様に、受賞対象となった事例とその後の取組についてお話を伺いました。
日本における責任投資のパイオニアとして、すべての運用資産で重大なESG課題の解決に向けた取り組みを推進
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聞き手:事務局
担当者:アセットマネジメント事業部 責任投資推進室 責任投資ヘッド 加藤正裕様
── 御行は国内の運用機関として初めて、すべての運用資産でESGを組み込む方針(「MUFG AM責任投資ポリシー」)を策定しました。ESGについては、社内をはじめ、顧客や投資先などにどれくらい浸透していますか?
資産運用の担当者の場合は、株式や債券、不動産などそれぞれの資産に応じてESGを考慮した運用を行っています。しかし、ESGを考慮した運用に直接関与していない場合、社内外でESGへの理解は進んではいるものの、なぜESGが重要なのか、どうしてすべての運用資産でESGを考慮するのか、その理解は、自分ごととして、とても重要だという認識まで至っていないことも見受けられます。この背景には、ESGを考慮した投資がどれだけパフォーマンスに貢献するのかなど、未だESGに対して懐疑的な見方などもあるからです。どのようにESGを考慮した投資の重要性を情報発信していくと、その重要性が伝わるか。その情報発信のやり方は、責任投資を普及していくうえで、引き続き大きな課題となっています。今回、環境大臣賞をいただいたことは、とても名誉なことであるだけでなく、社内の関係者にも周知することで、自分たちの会社が行っている責任投資の取組に対する大きな自信につながりました。今回の受賞は、社内でESGの重要性の理解を広げていくうえでも、本当にありがたかったと感じています。
――責任投資報告書を拝見したところ、勉強会の記述がありました。ご受賞から半年以上経ちますが、受賞後も含め、これまでどのような勉強会を開催しているか教えてください。
アナリストなど運用実務担当者向けの勉強会は、この1年間で17回ほど開催しました。人権問題からヨーロッパの「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR規制)」(注①)など幅広い内容です。今年の5月には、中立的で実践的なリサーチ情報をご提供することにより、世界の責任投資の普及に貢献していきたいと考え、子会社であるFSI(ファースト・センティア・インベスターズ)というグローバルな資産運用会社(本社オーストラリア)と協働で、MUFG ファースト・センティア サステナブル投資研究所を立ち上げました。そして、この研究所の第一弾レポートとして、「海洋マイクロプラスチック汚染:その原因・影響と投資家にとっての課題」をテーマにしたレポートを発行しました。プラスチックは、その汎用性と製造コストの低さから、日常生活のほぼすべてのものに組み込まれ、世界中に豊富に偏在しているため、環境に及ぼす悪影響への懸念が高まっています。このレポートの内容は、運用部署内で勉強会を行い、その重要性を社員と共有しました。このような身近なESGのテーマを勉強会で採り上げたのは、社員が自分ごととしてESGを認識することが重要だと考えているからです。
今年の6月には、役員向けに、弊社の責任投資の取組や、投資家の目線などについての勉強会も行いました。このように、弊社では、より多くの役職員と責任投資の情報を共有し、全社一丸となって、責任投資の取り組みを実践し、その思想を私たちの企業風土として定着させていきたいと考えています。
――エンゲージメント件数が約880件ということでしたが、ご受賞後、件数に変化はありましたか?
コロナ禍で実際に対面するミーティングは減ったものの、オンラインを通じたミーティングにより、エンゲージメント自体は継続しております。足元のESGに関するエンゲージメント件数の比率は、前年度の約40%から56%に上昇しており、その重要性が更に高まっています。
例えば、気候変動や人権などをテーマとしたエンゲージメントの重要性は、これまで以上に高まっており、今後減ることはないでしょう。
弊社で設定している「重大なESG課題」については毎年アップデートしています。応募時点では、「気候変動」「健康と安全」「ガバナンス体制」「情報開示」の4つでしたが、これに「人権・ダイバーシティ」を追加し、現在は5つになりました。これらの課題を中心に、多くの投資家と一緒に行う協働エンゲージメントにも力を入れ、投資先の取組を推進・サポートしたいと思っています。
――今回の応募事例は、どのようにピックアップされているのでしょうか?
弊社では、株式・債券・不動産の運用部署、外部の運用商品を扱っている部署などが定期的にミーティングをし、それぞれが行っている責任投資の取組状況や課題などを共有しています。
そして、実際にどうやって取組を進めていくかについて、海外の先進事例などを共有しながら検討を進めています。取組事例のチョイスに関しては、応募にあたり、改めて弊社のこれまでの取組を振り返り、その特長は何か、表彰制度の主旨に沿い、弊社の特長として応募に値する取組は何か、洗い出しました。
今回名誉ある環境大臣賞を頂いたことで、弊社が皆さまからどのような取組を期待されているのかを知ることができましたし、次の新しい取組を考えるためにも大変有益な機会となりました。
── ありがとうございました。
注① 欧州の運用機関等を対象にESG関連プロダクトの透明性を高めるために定めたサステナビリティに関する情報開示ルール
(2021年9月オンラインにてインタビュー)