資 料

2018年度(平成30年度)第5回

セミナー「地域で認知症の人を支え、高齢者の地域参加を進める企業の役割」

超高齢社会を迎えている日本において、地域をどのように作っていくのかが大きなテーマとなっています。そして、認知症の人もふくめて課題を抱える人々をさまざまな立場の機関、企業、個人がそれぞれできることを持ち寄ってネットワークを作り支援をしていくことが求められています。

 

そこで、金融機関約270社が参加する21世紀金融行動原則(持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則)と世界17ヵ国の国際長寿センターアライアンスの一員としてプロダクティブ・エイジングを進める国際長寿センター(日本)の共催により、本セミナーでは地域で高齢者を支援し新しい地域を作っている企業担当者と地域包括ケアを進めている行政担当者を交えて、これからの日本の地域の課題を解決し、どのように活力のある高齢社会を作っていくのかを考えました。

 

 

以下に詳細な報告を掲載いたします。

 

 開催報告

進行

大上真一(長寿社会開発センター 国際長寿センター室長)

 

2019年1月15日、ホテルメルパルク東京において、金融機関約270社が参加する21世紀金融行動原則と世界17カ国の国際長寿センターグローバル・アライアンスの一員としてプロダクティブ・エイジングを進める国際長寿センター(日本)の共催によりセミナーが開催された。

超高齢社会の日本において、地域づくりは大きなテーマのひとつ。認知症の人も含めて、すべての人が、それぞれの地域で生活する上での課題を解決するためには、新しいネットワークの構築が喫緊の課題となっている。企業関係者と行政担当者を交えて、さまざまな立場の機関、企業、個人がそれぞれできることは何か、それを持ち寄って作り出すネットワークによって活力のある高齢社会をどのように作っていくのか。業界の垣根を超えたつながりの必要性と新しい地域づくりの可能性を実感するセミナーとなった。

 

 

<行政報告> 地域包括ケアの現段階と民間企業に求めるもの 石井 義恭氏(厚生労働省老健局総務課課長補佐)

厚生労働省 老健局総務課 課長補佐 石井 義恭 氏

団塊の世代ジュニアが高齢化のピークを迎える2040年以降は、急激な高齢者の増加と現役世代の減少が起こる。介護ニーズもさらに高まることが予測されるが、国は、①健康寿命の延伸と②テクノロジー技術の活用による生産性の向上を目指している。

地域支援事業である、「介護予防・日常生活支援総合事業」では、サービスの提供方法を多様化し、「包括的支援事業」では、在宅医療と介護連携、認知症総合支援などを充実する体制に変わった。生きがいや活動の場を地域に広げていく取り組みであり、「自助」と「互助」のネットワークを地域で作り出す総力戦が、地域包括ケアシステムである。

石井氏は、「企業のみなさんにも、地域ケア会議や協議体の話し合いに参加いただき、地域を豊かにする土台作りに参加いただきたい」と述べ、企業の持つスキルの提供とネットワークづくりに参加を強く求め、続く民間企業の3つの取り組み事例につないだ。

 

<報告1>認知症の人にやさしい金融業、地域の中の金融業とは -金融業界の取組み-   金井 司氏(三井住友信託銀行フェロー役員 チーフ・サステナビリティ・オフィサー)

三井住友信託銀行 フェロー役員 チーフ・サステナビリティ・オフィサー 金井 司 氏

認知症への対応は、COLTEMプロジェクト(高齢者の地域生活を健康時から認知症に至るまで途切れなくサポートする法学、高額、医学を統合した社会技術開発拠点を意味する英語の略称)への参画を通じた専門職との連携を重視したことから、3つの内容に取り組んだ。

 

「営業フロントにおけるリテラシー向上」では、全営業店を対象に認知症アンケートを行い、認知症に起因した問題が広範に発生していることを把握。国の新オレンジプランに基づく「認知症サポーター養成講座」を積極的に受講するとともに、金融機関におけるケーススタディのために「認知症の人にやさしい 金融ガイド」を発行し、より実務的な対応を強化している。

「地域包括支援センターとの連携」では、認知症の人を支えるという視点は、窓口での対応だけでは限界があり、地域包括支援システムに参画し独自の役割を担うべきではないかとの問題意識から、全国の営業店に、近隣の地域包括支援センターとコンタクトを取り協力を申し入れていることを報告。

「認知症のお客さまの財産管理における対応力の強化」では、認知症となって段階的に判断能力が低下していくときにも、財産管理が行えるよう、認知症の症状のそれぞれの段階での対応を考えた商品ラインナップとしたことを紹介。

金井氏は、「地域との連携の大切さを痛感しているが、個人情報保護などの問題から十分な連携ができていない。金融機関が地域の構成員としての役割を担っていきたい」旨を訴えた。

 

<報告2>マンション住民の高齢化と認知症の人への取組み -マンション管理業の取組み-  田中 昌樹氏(マンション管理業協会調査部次長)

マンション管理業協会 調査部次長 田中 昌樹 氏

マンション管理業組合の取り組みとして、「マンション居住高齢者への支援マニュアル」(2008年)や実態調査の実施、「認知症セミナーの開催」(2017年8月~12月)、有識者や行政も参加する勉強会を継続的に開いている。

実態調査で言えば、会員社に対して、認知症に伴う課題について自由記載の回答とヒアリングを行った。「興奮・暴言・暴力」「理解・判断力の低下」「見当識の障害」「幻覚・妄想」「徘徊」などが明らかになった。「トイレの汚物が漏水を起こした事例」「電気炊飯器をガスコンロで燃やした事例」「ゴミ屋敷化した事例」「隣の住民が天井の隙間から侵入してくると訴えられた事例」など、認知症が原因と考えられるトラブルが多いことを把握した。

会員社の対応として好事例を紹介。A社では、管理員が安否確認やゴミ出しの補助を行い、高齢者の見守りに繋げている。また、B社では、地域包括支援センターと連携し、集会室を活用して認知症カフェと運営している。

地域での連携が模索されているが、分譲マンションは自治体が支援の対象とする地域コミュニティには含まれていないことも多く、マンションの管理組合が地域と協定などで繋がるスキームは出来ていないのが現状である。

田中氏は、「連携に向けた議論の仕方としては、正論で進めることが必要だと考えている。事例集や対応集などの作成など、さまざまな課題に向き合いながら解決していきたい」とまとめた。

 

<報告3>「セーフティステーション」活動を通じた地域高齢者支援 -コンビニ業界の取組み-  堂本 敏雄氏(日本フランチャイズチェーン協会CVSセーフティステーション活動推進委員会委員長)

日本フランチャイズチェーン協会 CVSセーフティステーション活動推進委員会委員長 堂本 敏雄 氏

(一社)日本フランチャイズチェーン協会(JFA)は、国内全コンビニエンスストアの99.7%が加盟する組織。セーフティステーション活動(SS活動)は、自治体のイベントなどに合わせた年間活動計画を立て活動しており、『安全・安心なまちづくり』と『青少年環境の健全化』が大きな柱である。

 

SS活動では、店舗が取り組んだ事例に対し表彰を実施しており、昨年1年間で約480店舗が表彰されている。例として、毎日来店する高齢の男性のお客様がしばらく来店しないことを心配した従業員が、配達した実績もあるお客様のご自宅を訪問し、屋内で倒れているところを発見。救急車に同乗して病院に向かうことで、一命をとりとめた事例が紹介された。

また、地域の安全・安心を守る活動として女性・子どもの駆け込み対応や高齢者保護がある。2017年の高齢者の保護件数は、年間16,137回以上(9,359店舗)あり、また、特殊詐欺被害を未然に防いだ店舗は6,158店舗であった。

 地域社会と関係を深めるために今後実施したい活動などを加盟店にアンケート調査したところ、「地域包括支援センターとの協力」、「自治体・こども会・敬老会に参加」、「認知症サポーター養成講座の受講」など、地域との関係を真摯にとらえる内容が多くみられた。

 JFAと自治体などが協働で開催している認知症サポーター養成講座で、認知症を体験できるバーチャルリアリティ(VR)体験などを実施するとともに、シニアの採用も積極的に増やしている。

 池田氏は、「お客様が必要とする商品・サービスをそろえることはもちろん、日頃の地域とのつながりに大切なのは、目配り・気配り・声掛けと行動。非競争分野においては、各チェーンの垣根を越えて取り組んでいきたい」と力強く話した。

 

<さまざまな取り組みと課題、展望>地域の課題解決に向けた企業の取り組み -事例と方向性-  斉藤 徹氏(電通 ソリューション事業部ソリューションディレクター)

電通 ソリューション事業部 ソリューションディレクター  斉藤 徹 氏

認知症のマスメディアへの出現頻度が多くなったのは、ここ5年くらいのこと。認知症による事故が目立ち、何より備えることの大切さという視点が優先され、認知症の当事者への対応はあまり見られていないように感じる。

認知症は、文学や映画などのテーマとして取り上げられてきてはいる。認知症に関する商品としては、運動習慣を変えることで認知症のリスクを減らすことや、脳トレやサプリなど予防的なものが目立つ。

認知症の人への関心についてみると、発表があった金融機関やコンビニエンスストア、マンションといった日常生活圏では高まっているが、非日常的な業界では低く、特に交通機関では対応が進んでいない。

さらに、自治体と企業の連携はまだまだこれからの課題であり、認知症についての対応ということを念頭に置かなければ、企業が加害者になることもあることに注意が必要。

認知症フレンドリーといって、認知症の人にやさしい社会の在り方に取り組む例は英国などで始まっている。

斉藤氏は、「日本でも、認知症の当事者が集うことのできる『認知症カフェ』や認知症の人が接客を行う『注文を間違える料理店』という取り組みがあるが、当事者(家族)が対処療法的な取組をするだけでなく、企業の力も活用し社会啓発も視野に進めることで認知症フレンドリーな社会の構築になるのではないか」と言及した。

 

<さまざまな取り組みと課題、展望>地域の課題解決に向けた自治体・地域の取組み -事例と方向性-  服部 真治氏(医療経済研究機構研究部主任研究員兼研究総務部次長)

医療経済研究機構 研究部主任研究員 兼 研究総務部次長  服部 真治 氏

「共生」について、厚労省が進める新オレンジプランの進捗状況は、企業の協力などにより、2017年度末で認知症サポーターの養成数(1,066万人)や認知症カフェの設置自治体数(約6,000か所)などの数値目標がほぼ達成されようとしている。

高齢者は、住み慣れた地域で生活を継続することが原則であり、特に認知症の人についてはリロケーション・ダメージ(居住地移動による弊害)を避けることが必要。「共生」するためには、多くの人が認知症の人の行動・心理症状(BPSD)を理解し、関わることが必要だが、介護保険と医療保険のつなぎが十分にできないと、ケアが断片的になってしまうリスクがある。

 東京都では、①「アドミニストレータ―」を養成し、②ケアチームの話し合いによりBPSDをコントロールするケアプログラムの科学的有効性の検証や普及に取り組み始めており、2025年度までに全都で展開する予定。

 これからは「予防」だが、近隣とのつきあいがない人の有病率は高いが、逆にサロンに出かけたり、老人会に参加していたりする人の有病率は低く、いくつかのイベントに参加するといったポジティブな高齢者ほど有病率が低い結果が出ている。地域で役割がある人ほど長生きであるなど、リスクを減らすエビデンスは溜まってきている。

 地域では、熊本県大津町とイオンモールが健康チェック事業を実施したり、カラオケ業者やフィットネス業者と連携したりと、自治体と企業が組んだ取り組みが行われており、企業とネットワークを作ることで世代間交流も生まれていく。

 服部氏は、「企業との連携について自治体にはまだ躊躇が見られるが、徐々に広がりつつある。公平性がネックなどと言われるが、先進自治体は手を挙げてくれる企業とは全て組む姿勢でクリアしている。今後、さらに各地で事例が増えていくだろう」と述べ、自治体と企業との連携の必要性を訴えた。

 

<シンポジウムのまとめとコメント>  金井 司氏 + 斉藤 徹氏 + 服部 真治氏

シンポジウムのまとめとして、パネリスト全員が登壇。斉藤氏が司会となり、自分の専門以外への関心についての発言を求めた。

 

池田氏は「チェーンの垣根だけではなく、業態の垣根を越えていく取り組みの必要性を感じた」。田中氏は「金融、コンビニ、マンション部門が認知症サポーター養成のトップ3であるとは知らなかった。新しい拠点になれるようになりたい」。金井氏「自治体に話をもっていっても拒絶されるケースが目立つ。企業間の連携も始まったばかり」、服部氏「今後は総力戦との話が石井氏から冒頭あったが、第1部での発表は本当に心強いとしか言いようがない。SS活動のような健全なライバル関係などについて、たくさんの自治体に紹介したい」と述べた。石井氏「共生型社会をつくるということは、企業をはじめとした可能なものを持ち寄って地域の中で未来を作っていくことに他ならない」と、地域のさまざまな力を集めていくことの重要性を改めて訴えた。

 

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