SDGs勉強会③ 日本の技術でSDGs達成~中小企業の海外進出を連携して支援
開催報告
2018年9月19日(水)午後3時より、21世紀金融行動原則、環境省共催で、第4回持続可能な地域支援WGとして、「SDGs勉強会③ 日本の技術でSDGs達成~中小企業の海外進出を連携して支援」を開催いたしました。昨年度後半より、テーマとしているSDGs勉強会の3回目となり、21世紀金融行動原則署名機関を中心に合計62名の参加がありました。遠方から上京し、参加してくださった地域金融機関の方もいらっしゃいました。
以下に詳細な報告を掲載いたします。
イントロダクション
三井住友トラスト・ホールディングス(株) (持続可能な地域支援WG座長機関)フェロー役員 兼 チーフ・サステナビリティ・オフィサー 金井 司 氏
- SDGsをテーマとしたWGとしては3回目。今年度深堀りしている。
- 21世紀金融行動原則のWEBサイトで、過去のWGの議事録など詳細を紹介している。
- SDGsに取組むという中で、この取組は「21世紀金融行動原則」なので、お金のことを考えたい。
- SDGs勉強会の第2回目では、中小企業が海外に出てビジネスを展開していく中で、最終的にはお金がつかないとビジネスが進まないという課題が出た。今日はその話をさらに深堀する。
講演1「SDGsの取組意義と普及啓発~SDGsで地域を変える」
株式会社TBM 代表取締役CEO 山﨑 敦義 氏
(※発表資料は非公開)
(左の矢印をクリックすると詳細が読めます)
会社概要など
会社概要など
- 新素材LIMEXは石灰石が原料で、紙やプラスチックの代替と成る新素材
- 大阪の岸和田出身。中学卒業後、大工の見習いになったが、もっと大きなことに挑戦したいと20歳の時に起業し、中古車屋さんをした。十数年複数の事業に関わり、今から7年前にTBM(タイムズ、ブリッジ、マネジメント)を立ち上げた。つまり、時代を架け橋でつなぎ、それをマネージメントするという意味で、何百年と続く会社を興したかった。
- 会社概要としては、さまざまな方に関わってもらい、資本金は88億4,480万円(2018年10月現在)。(詳細はWEBサイト参照:https://tb-m.com/company/)
LIMEX(ライメックス)とは
-
- 主原料は、石灰石。これはセメントの原料。世界中に無尽蔵にある。安価。日本でも唯一100%自給できる鉱物資源。
紙との比較
- 紙は1トンの紙を作るのに大体20本の木と100トンの水が必要。
- LIMEXは石灰石を主原料で、少量のポリオレフィン樹脂を混ぜ合わせて様々なものを作る事が出来る。原料に水や木は使わない。
LIMEXの用途
- 飲食店のメニューや名刺など。東京マラソン2018の地図にも使用された。
紙の需要
- 年間の紙消費量は、日本人は年間200キロ、中国で75キロ、インドで15キロぐらいといわれている。世界中人口が増えている中、世界の紙の消費量は増加し、仮に世界で1人あたり年間100キロの紙が消費されると2030年には今の倍の量の紙が必要になると試算されている。
- ダボス会議でも、水リスクが取り上げられている。水資源が乏しいところでもLIMEXを使用すればSDGsの水についての目標が達成できる。
プラスチックの代替としてのLIMEX
- 食品容器や生活雑貨など色々な成形品として製品化できる。
- 通常のプラスチック製品の多くは、石油由来樹脂が100パーセント。LIMEXを使えば、石灰石が主原料のため、石油由来樹脂の使用量は減らすことができる。
- 紙とプラスチックの代替として、水資源、石油資源に大きく貢献していく可能性のある素材がLIMEX。
なぜ、この事業をやろうと思ったのか
- 20歳で起業。30歳で生まれてはじめて、ヨーロッパへ旅行した。そこで、何百年もある建物などを見て、街の持つ歴史からすると人間一人の人生はアッと言う間だと思い、自分は何百年と生き続ける事は出来ないが、何百年と挑戦し続けていける会社なら残せるのではないのか、と思った。
- グローバルに挑戦していく会社をやりたいと始めたのがTBM。
ストーンペーパーとの出会い
- 台湾で2008年にストーンペーパーと出会い、日本の輸入商社となった。
- 評判はよく、単発の案件では使用してもらえたが、重い、価格が高い、品質が不安定という課題があり、素材として継続して使ってもらえなかった。
- 品質改良を台湾の会社に依頼したが、着手してもらえなかった。
自社でLIMEXの技術開発を開始
- 2010年の終わりごろ、かつて日本製紙で開発担当の専務を務められていたの角(すみ)氏(現在TBMの会長)と出会い、素材開発を一緒にやってもらいたいと頼んだ。
- その後大学のラボ、研究機関などの施設を借りてサンプルが出来上がった
- 2010年終わりごろは、リーマンショックの後で、日本のベンチャー企業が資金調達する環境の中で一番厳しかったと言われる時だった。何十億もの資金調達が必要で、中東やシンガポールなど海外も回って資金調達を試みたがうまくいかなかった。
- 最終的には2013年の2月に経済産業省より、イノベーション拠点立地推進事業「先端技術実証・評価設備整備費等補助金」として採択された。過去に何回か申請したが、書類審査で不採択であったが、その時は経産省でのプレゼン審査に呼ばれ、採択された。
- とてもうれしいことであったが、補助金が決まってからが、大変であった。2年以内に工場を完成させなければならない。採択後、交付決定通知がなかなか下りない、時間がない中、2015年2月に工場が竣工した。
- 東日本大震災の復興の一翼も担いたいということもあり新幹線で停車する宮城県の白石蔵王という駅の近くに工場を建設した。地元の若い子を採用することができ、ここまで頑張って来て良かったと涙が溢れた。
工場からの最初の印刷物
- その工場から出てきた最初の印刷物は、2015年のミラノ万博の日本館で使われたポスター、袋などの印刷物。ミラノまで行き、あれだけ苦労して、白石の地元の子達が頑張って作ったものが世界中の人の手に触れているのを見て本当に嬉しくて感動的であった。
- ここまでがLIMEX事業を始め、工場が出来て、一つ目の製品が出来るまでの経緯。
LIMEX事業の今~最近の取り組み
- 凸版印刷とパートナーシップ強化。
- 大勢の方に支援してもらい、今は資本金も増えてきた。
- 経済産業省から量産工場(第2プラント)の建設のために補助金を、研究開発には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からも助成金を受けている。総額100億円の資金を投じて素材開発に向けて進めている
海外パートナーシップ強化
- 海外からも引き合いが多い。400社以上。
- サウジアラビアでのLIMEXの開発及び製造活動に向けて基本合意
- CDPレポートでLIMEXを使用。
- 2018年5月開催のCSRヨーロッパでのSDGサミットでTBM社はパートナーとなり、LIMEXをサミットのパンフで使用していただいた。
- マイクロプラスチックの問題が起きている中、LIMEXを使ってその問題に貢献していきたいという思いがある。我々の100名のベンチャーだけではできることが限られている。グローバル展開を加速させたい想いから、伊藤忠商事と資本業務提携を2018年8月に締結した。
生分解性LIMEXの開発
- LIMEXは石灰石とポリオレフィンを少量混ぜるが、石油由来ではなく、トウモロコシから出来たポリ乳酸という樹脂を石灰石と合わせた生分解性LIMEXの素材開発を進めている。
アップサイクル
- アップサイクルとは、使用したものを回収して、手を加えて価値を上げて再製品化すること。
- 例えばイギリスのスターバックスでは、プラスチックの容器をゴミ箱で回収し、木片を混ぜて家具などを作るアップサイクルをやっている。
- LIMEXは回収した後に価値を高めて再製品化することがしやすい素材。
- アップサイクルに力を入れていきたいと考えている。
- 一つの事例は、日本で行われたブラインドサッカーの世界大会で使った横断幕をLIMEXで作成。それを回収して大会のオフィシャルグッズのスマホケースとして販売した。
- 2018年8月に、TBMと鯖江市、慶応義塾大学大学院が、SDGsへの貢献を目指す相互連携協定を結んだ。
- 郵便局などを回収拠点とし、LIMEX素材の印刷物を回収し、漆を塗布してお椀などの製品を製造し、海外に輸出、国内で販売などをしていく。
国内パートナーシップ強化
- 日本中にあるプラスチックの成型工場のプラットフォームを構築し、アップサイクルを進める。その際に例えば、地方銀行のもつ地域ネットワークが活用できるかもしれない。
今後のシナリオ
- 日本のような回収の仕組みが整っているところでは、アップサイクル。
- 途上国のような回収の仕組みがないところでは生分解性でワンウェーで使用してもらう。
- これをドンドン世界中に展開していきたい。
-
我々は、世界中でその国に豊富にある石灰石を使って、現地のパートナーとライセンス契約を結び、日本で確立したLIMEXのエコシステムを輸出、LIMEXの工場を増やしながら、世界中に新しい産業と雇用を創出していきたい。また、日本の技術の強みを生かして、国内外のパートナーと一つになって、LIMEXを世界に広めていきたい。これらの挑戦を、今後加速していくので、どうかよろしくお願いします。
【講演②】「SDGs 達成に向けたインパクト投資の役割」
株式会社 産業革新機構 ベンチャー・グロース投資グループ ディレクター 佐藤 哲 氏
(※発表資料と共に以下の報告はご覧ください。発表資料(PDF 2MB)は上のスライド画像をクリックしてください。)
(左の矢印をクリックすると詳細が読めます)
スライド2:会社概要
スライド2:会社概要
- 政府と民間から両方の出資を受けてできている組織のため、官民ファンドと呼ばれている。
- 投資の運用能力は2兆円を超える。
- 特徴としては、運営期間は15年間で2025年3月までの組織であることが決まっていること。また、投資基準としては、オープンイノベーション、「革新性」を重視している。
スライド3:投資案件に対する評価軸
- 3つあり、「収益性」(Profitability。儲かるか)と「実現可能性」(Feasibility。事業計画は実現可能か)は、時間軸は違えど、民間のファンドと同一の評価軸。「投資インパクト」(Impact)が INCJの投資基準の特徴。国民、産業界にどういうメリットがあるかどうかを評価。SDGsとつながるところがある。
スライド4:投資ポートフォリオ
- 設立から9年。133件の投資を実施。
- 投資ポートフォリオ 8割ぐらいがアーリー、ベンチャーへ投資。
- 設立から現時点までの支援決定額は1兆945億円。
- 46件のExit件数(売却を開始もしくは完了した案件)。
スライド5:産業革新機構の組織再編
- 現状の産業革新機構は、2025年の3月末で解散だが、2018年9月末に産業革新投資機構ができ、これは2034年3月末まで続く。
スライド7:インパクト投資とは?
- 従来型の投資(経済的リターンを最大化する)であるが、社会的リターンの創出も目指すのが社会的投資。
- 慈善型ではなく、経済的リターンを出しながら、社会的リターンもというのがインパクト投資。
- 経済的利益と社会的価値をバランスさせている。
スライド8:グローバルなインパクト投資の潮流
- グローバルでは非常に盛ん。229ぐらいのファンドがある。棒グラフは毎年どれほどの数のインパクトファンドが創設されているかを表している。
- 慈善事業ではと思われているかもしれないが、マーケットリターンも狙っているファンドが多い(円グラフ参照)。ただし、リターンを重視している投資だけではない。
スライド9:インパクト投資資金の割当状況(地域・セクター)
- 地域、セクターとしては、投資を受けている国としては、米国・カナダ、南米、サブサハラアフリカが多い。
- しかし、本拠地の場所は、米国と欧州に本部があるところが多い。つまり、北米・欧州にあるファンドが中心となって投資を行っている。
- セクターとしては、金融サービス、エネルギー、マイクロファイナンス(MF)等(グラフ参照)。ただし、エネルギー、MFは公的なお金が多く入っている産業(非エクイティ)。
スライド10:インパクト投資し資金の割当状況(ステージ・手法)
- どういうステージの会社に投資しているかというと、グロースステージの会社に投資しているインパクトファンドが多い。
- 右側のグラフを見ると、ローンでの貸付けが多いと思うかもしれないが、民間エクイティがそれに続く。
スライド11:投資家がインパクト投資を行う動機
- 使命感からという動機も多いが、注目すべきは、5、6番目。インパクト投資はこれから伸びていく分野である、魅力的なリターンを出せる、ということで投資している投資家も多い。
スライド12:インパクト投資のリターン/エグジット
- 投資をした時にどの程度の利回りがあるかということでは、先進国でも新興国でも20%近くでマークしている。つまり、インパクト投資ということでリターンを捨てているわけではない。
- どのくらいの期間株を保有しているかというと、平均4、5年。売り先は、海外のファンドは売り先がしっかり分かれているので、seedフェーズ、earlyフェース、 growthフェーズと次のフェーズへのファンドへの譲渡、または事業会社へのM&Aなど。
インパクト投資とSDGsの連関性
スライド15:新興国におけるSDGs市場規模
- 人口に比例し、東南アジアが大きい。
スライド16:BoPとは?
- 新興国におけるビジネスではBoP(Base of the Pyramid)を無視することはできない。
- BoP層とは、年間所得が30万円以下の低所得者層を指すが、BoP層は新興国に多い。
- BoP層を唯一の顧客層と見てビジネスをしているケースもあるが、中間、高所得者層から利益を生み、事業資金をBoP層向けの事業に還流していく企業もある。
- BoP層は、10年後、20年後には中間所得者層へ移行していくと考えられるので、将来的な成長マーケットとなることが想定されている。
スライド17:BoP市場の地理的分布
- 人口としては、アジアに多いが、BoP層の総人口に占める比率はアフリカが圧倒的に多い。
- このようなBoP層は、外せないターゲット顧客層。
スライド18:優先順位の高いSDGs -達成目標までのギャップ
- SDGsの17の目標それぞれについて、ゴールとのギャップ(乖離)を示している。
スライド19:インパクト投資とSDGs
- SDGsを投資指標として見ている機関は多い。過半数(円グラフ参照)
- 理由として面白いのは、3番目「投資家を惹きつけることが可能」という点。また5番目の「投資戦略や投資機会を見出す」と、SDGsが投資や事業のヒントとなるという点。
スライド20:ビジネス及びインパクトKPI合致の重要性
- ビジネスとインパクトのKPIを合致させたKPIを作ることがポイント
- インパクトだけに焦点を当てたKPIを設定すると企業には手間もコストもかかるように感じる。ビジネスの範疇と重なるところでKPIを設定するのが秘訣か。
- 「インパクトKPIの追及が事業遂行の「重荷」になってはならない」ということがよく言われている。
スライド21:インパクトKPIの設定フロー
- 設定方法はいくつかあるが、よく言われるのが「ロジックモデル」。これをSDGsとどうつなげるかというと、将来的に生み出したいインパクトからアウトプットレベルにバックキャスティングをする。
- アウトカムをSDGsと設定して、逆に考えていく。(例:飢餓の撲滅が目標であれば、「食を増やす」をアウトカムとし、そこから樹形図式でアクティビティ等を考えていく)
日本におけるインパクト投資
スライド23:国内気運の高まり:日本政府の取組み
- SDGs推進本部の設置
- SDGsアクションプラン2018を策定
- アフリカ開発会議(TICAD)開催(2019年横浜)
スライド24、25:国内気運の高まり:SDGsアクションプラン2018/経済界の取組み
- 社会的課題が山積しているのは新興国であるが、そこでの社会的課題を日本企業の製品やサービスを使って解決する。そして、企業の新興国へのマーケット展開を支援するのが、本構想とも合致するSDGsモデルである。
スライド26:日本におけるインパクト投資の現況
- グローバルでは、インパクト投資は増えているが、国内でインパクト投資はあまり行われていない。世界のインパクト投資のうち、わずか日本は0.6%。
- 日本の非上場企業に対する株式出資という形での資金供給が特に足りていない。
新興国向けインパクト投資における金融機関の役割
スライド28:地方銀行の貸付状況と中小企業の海外志向
- 今回のWGのもう一つのテーマが地方銀行、地方企業であるということで整理している。
- 貸付比率を表したのが左のグラフ。中小企業に対してがあまり伸びていない。リーマンショック後、大企業への貸付は回復が見られるが、中小企業に対する貸付けは、大企業向けの貸付けに比して回復基調が遅い。
- 右のグラフでは、海外展開については、中小企業の方が積極的であることが見える。中小企業向けの貸付けが回復しきっていないことを勘案すると、海外に出ていこうとしている中小企業は資金調達に苦労しているのではないか。
スライド29:地方の中小・中堅企業の魅力
- 地方企業では、競争過多かつ多額の資本を要する首都圏・先進国市場から新興国にピボットし、「10-15年の計」により、新興国展開を考えている企業が多い。
- 中小・中堅企業は、日本において安定したキャッシュフローを構築し、次の市場として新興国を捉えている企業が多い。
- SDGs事業をCSRとしてではなく、「本業」として捉え、コミットメント高く取り組んでいる企業が多い。
- 「地方」の「中小・中堅企業」は、縮小する日本市場から離れ、新興国におけるSDGsをイノベーション/新規事業のアイディアとして捉え、本業で社会的課題解決+新興国市場展開を考える企業が多い。
- オーナー企業の場合、新興国展開を「第二の創業」として考えているケースも多い。外部資本/外部知見に対するニーズが高い。
スライド30:海外事業/SDGsに関する地方銀行の懸念事項
- 海外事業に関するネットワーク・ノウハウ確保。取引先が海外展開をしたいと言ってもビジネスマッチングなどが難しい。
- または、SDGsといっても具体的に何をしたらいいかわからない。
- 評価基準が不明確ということもよく聞かれる。
スライド31:外資系金融機関のESG/SDGsに係る取組み
- 取り組み理由として一番多いのは事業機会の拡大。
インパクト投資におけるINCJの役割
スライド33:新興国事業/SDGs関連事業における資金調達
- 新興国事業/SDGs関連事業をする企業がどのフェーズで、どのような機関と連携しているのかを整理した図。
- 事業化検討ステージには、JICAへ行き、補助金などを受ける。次の事業資金を得ようとするアーリーステージでの資金調達は難しい。INCJはアーリーステージにも投資している。その後のエクスパンション(拡大)ステージへつなげるという役割がINCJにはできるのではないか。
スライド34:インパクト投資における課題(グローバル)
- 「関連するスキルセットを有するプロフェッショナル人材」が不足、「評価実績」がまだないので、事業や投資をどう評価したらいいかわからないという課題がグローバルでは挙げられている。
スライド35:インパクト投資における課題(日本)
- 日本では、「投資案件」がない、「社会的インパクト投資と財務的信用力に関する相関」関係がよくわからない、ということをインパクト投資の課題として捉えている企業が多い。
スライド36:SDGs関連事業の事業化プロセス
- 日本ですでに確立したモデルなどがあり、それを新興国にもっていくと現地のニーズにマッチしないということも見受けられる。
- 新興国展開の際には、ニーズ(SDGs)を咀嚼、解釈した上での製品開発、サービス開発が重要。
スライド37:インパクト投資の検討
- 産業革新機構はベンチャーに投資をしてきている。社会的課題が山積し、成長著しい新興国に進出しようとしている企業へ投資をしていきたいと考えている。
- インパクト評価が重要。
- 結果として、「日本企業による新興国展開(成長市場の取り込み)」や「日本製品・サービスによる社会的課題解決促進」を図っていきたい。
- そのために必要なのは、「ヒト」・「シクミ」・「カネ」の育成/提供。
スライド38:日本企業の新興国進出における投資家の役割
- ローカルパートナーが重要と考えている。現地パートナーをどう見つけるか。そこはJICAやJETROなどと連携が不可欠。
- 海外では信用力がないので、信用力補完も重要。
- そのためにさまざまな機関と連携することが必須。
スライド39:想定される投資パターン
- 国内企業への投資
- 国内外のジョイントベンチャーへの投資
- 新興国の現地企業に投資(日本企業との連携促進)
【講演③】中小企業・SDGsビジネス支援事業
独立行政法人国際協力機構(JICA)国内事業部 中小企業支援事業課 小澤 真梨奈 氏
(※発表資料と共に以下の報告はご覧ください。発表資料(PDF 3MB)は上のスライド画像をクリックしてください。)
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前回話した内容のおさらいと、この夏制度を変更したため、制度変更を中心に説明。
- 前回話した内容のおさらいと、この夏制度を変更したため、制度変更を中心に説明。
スライド2:中小企業・SDGsビジネス支援事業
- 途上国の開発ニーズと中小企業の製品・技術のマッチングを支援することが目的
- 途上国は先進国と比べてSDGsの17のゴールに紐づく様な様々な開発課題を抱えている。
- 対して中小企業が持っている日本の優れた技術が、課題に丁度マッチする。それをつなげてWin-Winの事業を展開することに対してJICAが支援するというスキームである。
- 前回は「中小企業海外事業展開支援」と呼んでいたが、「中小企業・SDGsビジネス支援事業」新しく制度が変わった。
スライド3:民間企業提案型事業制度の改善
これまでの制度
- 中小企業を中心とした「基礎調査」「案件化調査」「普及・実証・ビジネス化事業」と言う事で実証活動が出来る、こう言った3っの調査と後は企業の規模を問わない「SDGsビジネス調査」、「普及促進事業」という5っの事業。
- 中小企業にはどの事業を使って良いのかわかりずらいという課題があった。
- 大企業にとっても、もう少し手前のビジネスモデル策定するための調査を実施したいと言う声があった。
新制度
- 今回新制度と言う事で整理、統合した。
- 名称は以前とほぼ同様。
3つの大きな柱
- 「基礎調査」現地の基礎的なニーズ、情報収集をする事業
- 「案件化調査」基礎調査よりは深いレベルでの調査を行い、ビジネスモデルの策定を中心とする事業
- 「普及・実証・ビジネス化事業」ビジネスモデルの素案に基づいてビジネスモデル自体を検証、実証。また製品を現地に持って行って製品の適合性を図るといった事業
- 上記に横串を刺す様な形で中小企業が応募出来る「中小企業支援型」、原則、大企業が応募出来る「SDGsビジネス支援型」に分類でき、全部で5つの事業がある。
スライド4:中小企業支援事業・SDGsビジネス支援事業
- 公示が9月18日から開始した。10月中旬まで募集。
- 金額規模が「SDGsビジネス支援型」と「中小企業支援型」で異なり、負担できる経費も各スキームで異なる。
スライド5・6:開発課題の解決に資すると考えられる製品・技術の例
- 9つの分野を紹介しているが、これに限定するものではない。
スライド7:これまでの実績
2017年度までの実績の紹介。
- 現在まで以前の中小企業支援事業の制度で666件の企業を採択。
- 多い分野は農業、環境エネルギー関連、廃棄物関連の事業。最近は福祉等などの分野も増えてきている状況。
- 右下のグラフは対象地域別。東南アジアが7割程度、アフリカが1割弱。
- スライド8:JICA事業を活用した場合の事業継続
- 毎年4月頃にモニタリング調査を実施。
- 今年の結果では、8割の企業が何らかの形で事業を継続していると回答。
- その理由としては、実証活動を行う事で「自社の製品・技術・サービスを現地ニーズマッチさせられたこと」が一番大きな理由。
- 3位の理由では、「良きビジネスパートナーの確保ができたこと」があるが、JICA事業の持つ現地の政府機関とのネットワークや政府機関を通じて得られるビジネスパートナーとのネットワークによって事業を継続できているという形が表れている。
スライド9:JICA事業を活用した場合の事業継続
- 2割程度の企業が断念している状況。
- 事業を断念した理由としては、1つが海外展開する資金を確保できなかったこと。
- このような課題があるので金融機関や投資ファンドとの連携が非常に大事であると感じている。
- 断念した理由の回避案としてある意見が、「他の支援機関からの支援も得るべき」がある。支援機関をはじめとした他の機関からの支援も必要であるとの声である。
金融機関連携
スライド11:JICA中小企業海外展開支援事業~地域金融機関との連携に向けて~
- JICAも、金融機関との連携を2年ほど前から進めている。
- 大きく分けるとJICA事業を実施する前、実施中、実施後という段階での連携。
- JICA事業を使う前の段階では、セミナー・勉強会等を共催し、JICA事業等についての普及。企業を紹介してもらい個別相談等を想定。
- JICA事業実施中、事業開始後は、JICA事業をつなぐ融資等、出口のところでの融資。
スライド12:地域金融機関との連携イメージ
- 金融機関、JICA双方でメリットを持って連携をしたい。
- 事業を続けていくことで、最終的にSDGの目標を目指していくと、今後も金融機関との連携をさせて頂きたいと考える。
スライド13:JICA 金融機関連携の取組み
- JICAと地域金融機関46行と覚書締結を行っている。
- 入り口の段階としてセミナーの実施などは多数やっているが、出口の部分でまだまだ課題がある
- このあとのディスカッションを通じて、どういった連携出来るのか、ぜひご意見を頂きたい。
【ディスカッション】
中小企業による海外進出とSDGs達成に向けた支援と連携しての金融機関の事業機会
「中小企業の海外進出におけるチャンスと課題」
金井座長:ディスカッションでは、2つテーマを設けたい。
1つのテーマは、中小企業のニーズがあったとして、海外に行ってビジネスができるのかどうか。JICAの支援を通じて、日本の中小企業の海外での成功の可能性は実感としてあるのか?
JICA 澁谷:途上国での可能性はあると感じている。例えば、日本での製品市場ではかなり過当競争になっている分野でも途上国ではそういったサービスや材がまだまだ提供されていない状況がある。そうしたところに日本の経験や製品、技術、知見をもって進出していくのはチャンスはあるといえると思う。一方、様々な課題もある。ビジネスとしては、どういうふうに現地に入り込むのか、パートナーを見つけなければ、なかなか単体では難しい。現地の情報を得ながら、日本で確立したモデルを現地向けに合わせて改めて途上国のモデルを立ち上げて入って行く可能性は大いにある。しかし、それを実現していくのには課題がある。
金井座長:ポイントは、何か?
JICA 澁谷:途上国に関しては国の規制、リスク等の情報を得るのが難しい。ビジネスの判断材料として正確な情報を得ることが重要で、現地に明るいビジネスパートナーを探すことも一つの手段として検討されるべき。
十分に準備し、当該国でのビジネスについてきちんとした事業計画を作っていくことが大事。どれくらいリターンを得られない期間があるのかも考えなければならない。
金井座長:感覚として、特に地方において、海外に進出することができる企業が日本には存在するかどうか?欧米の企業と日本の企業を比較して、欧米の企業の方が積極的で、日本の企業は二の足を踏んでしまうということはあるか?
INCJ 佐藤:日本でも積極的に新興国マーケットにいこうとする企業は非常に多い。成功している企業の特徴は、現地の人を積極的に経営陣や従業員として採用し、ビジネスの慣習上の障害を乗り越えていくようなチームワークをしていることである。日本企業もうまくいっている企業は、実際に優秀な人材を取り込んで海外展開している。そうでないところは苦戦している印象を受ける。
金井座長:地方でのそのような人材の確保は難しいのではないか?
INCJ 佐藤:COOやCFO人材の採用は苦労している。資金調達のために戦略を描く人材も不足。
金井座長:山﨑さんは情熱の人だと思っている。中小企業が海外に出て勝負するポイントは?
また、TBMは途上国というよりは先進国を狙っているようにも見受けられる。先進国で勝負して勝てる可能性はあるか?
TBM 山﨑:事業の各ステージで必要な人材やステークホルダーを巻き込めるかが重要。それは、事業が進むステージに合わせて変わる。企業の顔ぶれも変わる。人に協力していただく状態をつくることが大事。また行動すること。
例えば、TBMのサウジアラビア進出については、日揮、サウジアラビア政府と基本合意を結び、日揮が培ってきた技術やノウハウを分けてもらっている。自分たちだけでやるということではない。さらに現地に行ったプロジェクトメンバーからの報告会も後日社内で行う。
金井座長:大企業と連携する秘訣は?
TBM 山﨑:勇気をもってポジティブに行動するのみ。中東で日本企業の経営層が集まる会合があった。こういった場では、積極的に名刺を渡して、名刺をいただいた方には、すぐに連絡する。その場に、当時の日揮の社長も参加されていた。日揮は砂漠のど真ん中で、その国のために何千億もするようなプラントを建てている企業。いつか一緒に世界で挑戦したいと思っていた。こうした経緯から、2017年、日揮、サウジアラビア政府との基本合意に至った。
金井座長:全国の中小企業にチャンスはある?
TBM 山崎:多いにある。海外では日本のベンチャーというだけで、信用をもらいやすい。日本の企業というだけで利点はある。日本の企業が途上国を支援してきた実績もあり、日本にはたくさんの技術があると思う。
金融機関に期待すること
金井座長:山﨑社長は資金調達に苦労した。今、日本の金融機関は超安全志向に陥っている。高度成長時代はおそらくそうでなかったと思うが、資金調達をして、そこに問題は感じるか?
TBM 山﨑:一つ目の工場ができて、製品ができ、売り上げがあがらないと銀行からは融資をもらえないだろうと思った。
金井座長:JICAが支援した企業は約80%は継続し、20%は残念ながら断念しているということだが、継続している企業で断念したところはあるのか。
JICA 澁谷:それは、ビジネスを断念していないという数値。具体的な数値としては、79%の3分の1に引き合いがあったり、現地で拠点を作るなど、具体的な進展がある。この値については継続的に経過をみる必要がある。
金井座長:金融機関が貸しやすくする仕組みは具体的にはどのように?
JICA 澁谷:支援事業の出口以降、本格的な展開のための資金需要に対応できることは重要であり、金融機関との連携を重視している。
金融機関に聞くと、審査自体は途上国ビジネスにおいても特別なものではないとの話を聞くが、事業性評価のところは、JICAによる支援事業のレポートが活用され得る部分と認識している。できるだけ審査において活用しすいレポートを作成してもらう。
最近よく聞かれるのは、カントリーリスクはJICAの調査の一環の中でわかってこないのかということ。企業のビジネスのリスク以外に、考慮しなければならないカントリーリスクに対しての情報がなかなか入りにくいといわれるケースがある。この点は金融機関と意見交換し、どのような情報が必要なのか、今後確認し、JICAとして協力できることを考えていきたい。
金井座長:日本企業のアフリカ進出の可能性は?
JICA 澁谷:ヨーロッパ市場を目指す企業にとっての前線基地であったり、アフリカならではの有用資源を商材にしていこうとする企業がアフリカをみていると感じる。アフリカにはいろいろなリスクがあるが、ビジネスチャンスという面では手付かずのものがあったり、人材の可能性があったりと、上手くつながると大きなビジネスチャンスがまだまだあるとはいえる。ただ、距離が遠い。一歩目を踏み出す勇気が重要。単独でいくというよりは、JICAとかJETROのような支援機関の支援を受ける。
金井座長:JICAのような組織は他の国にもある?
JICA 澁谷:先進国はJICAと同様の援助機関を持っている。各国が支援の方向性などを考えドナーコミュニティができている。最近のトレンドは民間資本を途上国の開発にどう活用するかということ。持続していくためには、経済を発展させていくためには民間資本が参画していくことが重要。どう一緒にメリットを享受しながらやっていくかが課題。
金井座長:エクイティーをつなぎのステージで出すということがどれくらいあるのか?そもそも海外に支援する発想がないところが結構多いと思う、こういう存在を知ることに知って前に出てみようという話もあることもありかもしれない、それを知らしめるにはどうしたらよいのか?
INCJ 佐藤:円滑な海外展開のポイントは、市場調査をして、マーケットがどこにあるのか、どういう製品にニーズがあるのかを確かめること。ニーズを把握し、プロトタイプを作り、修正することを高速で実施する。これを継続する。実際にその重要性に気づいているのが海外のインパクトファンドで、シード段階から関係構築し、色々な支援をしながら、その会社の成長を見届けている。そういった役割を日本でも、民間の金融機関が果たしていけると良い。
金井座長:全国を回られているが、地域性はあるか?
INCJ 佐藤:地方自治体、アカデミア、ないしは商工会議所等がうまく連携して、スタートアップを盛り上げている、そんな活動をしているところではスタートアップに対する資金も流れやすく、認知度も上がる傾向にあるのではないか。
金井座長:金融機関で、今日の話を聞いて、最初にスタートすると何に手をつけたらいいか。
INCJ 佐藤:取引先の会社との普段のコミュニケーションの中で、どういった展開地域がその会社の成長に即しているのかを考え、そのニーズを掘り起こしていくことがまず必要。JICAやジェトロ等、さまざまな制度があるので、その制度をどう活用するかを検討することも、とくにアーリーフェーズないしはシードフェーズの会社にとっては有効かと思う。バンキングビジネスの領域に入るまでには時間が掛かることも多いため、民間の金融機関でローン等で資金提供することは難しいと考える。とくにグループコンセプトができるまで、政府機関の補助金制度をうまく活用していくのが重要かと思う。
会場からの質問
質問者:INCJの佐藤さんへ質問したい。社会的インパクト投資を実施する金融領域のベンチャーだが、社会的インパクト投資を説明するのに苦労している。日本で進めるにあたってどういった点を強調して伝えればいいのか?
INCJ 佐藤:慈善事業ではない、ということがポイント。持続的に支援するためにはリターンが大事。投資を通じて、社会的インパクトをどのようなKPIインディケーターで測るかを説明する。もう1つのポイントは、投資によって、社会的な課題を解決することを通じて利潤を生み出すことができると咀嚼した上でビジネスの言葉で説明すること。
金井座長:地銀が地域の地場の企業に話をもちかける場合、どういう企業に持ちかければいいか?
TBM 山﨑:プラスチックの成型工場やシート成型をやっている会社と、我々は一緒に協業できると思う。コラボレーションできそうなところから一緒に取り組ませていただきたい。
最後に地方の金融機関に対して一言ずつメッセージ
TBM 山﨑:我々と連携できる企業を紹介していただきたい。そして、企業の将来性を今よりもっと評価してもらいたい。補助金を申し込んでもだめだと思っている企業が日本には多い。ビジネスマッチングなどをしていただき、実績作りをともにしていきたい。
INCJ 佐藤:産業革新機構の今までの133件の投資先は、9割は日本、さらにその中の8割、9割が東京圏。これからは地方企業へコンタクトしていきたい。そのためには、地銀との連携が必要不可欠。地方に眠っている有力な技術の発掘というような連携をしていきたい。
JICA 澁谷:JICAが担っているのは海外展開支援事業。事業後の本格的な事業に発展させていく際に金融の果たす役割は大きい。本気の中小企業をぜひつないでいただければ幸い。金融機関には、JICAの支援制度を自行のメニューに活用を検討してもらいたい。成長著しい途上国の経済の発展を自社の成長に取り込んでいく、そのために支援機関をうまく活用することが重要。全国に14カ所拠点があるので、気楽に相談してもらいたい。
総括
環境省 田辺:金融サイドと企業サイドがWin-Winの関係になるためには、すでにSDGsやESGが中心になりつつある。キーポイントのひとつは、人材と事業性評価。環境省の環境経済課として、どう後押しするか。来年度は、人材の面では、ESG投資をより正しく普及するために、PRIアカデミーとの連携やESGの基礎的な理解に資する教育カリキュラムの作成を検討している。
事業性評価からは、TBMのようなベンチャー企業を発掘する「目利き力」を養ってもらうためにも、ESGやSDGs要素を加味した融資モデルを地銀とタイアップして開発する。
また、ESG金融懇談会での提言を受け、ハイレベルパネルを設置することとしたい。引き続きサステナブルファイナンスの拡大について努力していきたい。
(閉会)
【参照】
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