セミナー「地域循環共生圏と金融機関」
環境省が提唱する「地域循環共生圏」は、各地域がそれぞれの特性を活かした強みを発揮し、地域ごとに異なる資源が循環する自立・分散型の社会づくりを進める一方、地域の特性に応じて近隣地域と共生・対流し、より広域のネットワークを構築しようという考え方です。地域が抱える様々な課題を統合的に解決しようというSDGs(持続可能な開発目標)の地域版として位置付け、自治体や各地域の市民団体などがその実践に取り組み始めています。こうした中、特に地域に根差す金融機関に大きな期待が寄せられています。
今回の持続可能な地域支援ワーキンググループ(地域支援WG)では、地域循環共生圏の基礎を学び、その実践に金融機関がどのように貢献できるのかをテーマに以下のとおりセミナーを開催します。
日時 | 2019 年10月29日(火) 15:00~17:00 (14:30~受付開始) |
会場 |
AP東京八重洲RoomB(〒104-0031東京都中央区京橋1-10-7KPP八重洲ビル13階) |
参加費 | 無料 |
定員 | 60名(原則、定員に達し次第締切) |
申込方法 |
申込フォームにて、必須項目を入力してください(推奨)。 申込フォームにアクセスが困難な場合は、金融行動原則事務局(kankyo_kinyu(a)gef.or.jp:(a)を@に変える )宛に、メールの件名を「10/29セミナー「地域循環共生圏と金融」」として、参加者氏名(ふりがな)、所属機関の名称(ふりがな)、部署・役職、Eメールアドレス、電話番号、所属機関の分類(21世紀金融行動原則の署名金融機関かどうか)をご連絡ください。 |
主催 |
21世紀金融行動原則 持続可能な地域支援ワーキンググループ |
問合せ先 |
持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(21世紀金融行動原則)事務局((一財)地球・人間環境フォーラム内) E-mail:kankyo_kinyu(a)gef.or.jp:(a)を@に変える/TEL:03-5825-9735/FAX:03-5825-9737 |
プログラム
(敬称略)
【開会挨拶】(15:00~)
金井 司/三井住友トラスト・ホールディングス(株)(地域支援WG座長機関) 経営企画部フェロー役員 兼 チーフ・サステナビリティ・オフィサー
【解説「地域循環共生圏について」】(15:05~)
泉 勇気/環境省大臣官房環境計画課 課長補佐
【基調講演「地域の持続可能な成長と第一勧業信用組合の取り組みについて」】(15:15~)
新田 信行/第一勧業信用組合理事長
【パネルディスカッション「地域循環共生圏と金融機関の役割」】(15:45~)
〈登壇者〉
・新田 信行/第一勧業信用組合理事長
・田辺 敬章/環境省大臣官房環境経済課 課長補佐
・泉 勇気/環境省大臣官房環境計画課 課長補佐
・金井 司/三井住友トラスト・ホールディングス(株)(地域支援WG座長機関)経営企画部フェロー役員 兼 チーフ・サステナビリティ・オフィサー
ダウンロード
基調講演「地域の持続可能な成長と第一勧業信用組合の取り組みについて」(第一勧業信用組合様)_資料
開催報告
東京駅に近い会場にて、地域金融機関を含む金融機関、シンクタンク等にお集まりいただき、環境計画課の泉 勇気 氏から地域循環共生圏や関連する環境省の施策の解説、2018年9月に「かんしんSDGs宣言」を公表、全国の信用組合等との連携により地域に貢献する第一勧業信用組合 理事長の新田 信行 氏からの地域金融機関の取組の紹介、そして「地域循環共生圏と金融機関の役割」について議論を行いました。
前半の環境省 泉 氏、第一勧業信用組合 新田氏の講演内容につきましては、上段「ダウンロード」より資料をご覧いただけます。
後半のパネルディスカッション「地域循環共生圏と金融機関の役割」では、以下のようなディスカッションが行われました。
田辺氏:泉氏の「地域循環共生圏」解説に対して感想を。
金井氏:改めて曼荼羅図(泉氏資料p15を参照)を見直すと、エネルギー・健康・防災など、このテーマがないと地域が上手く回らないものが網羅的に記されている。現在のVer.25までにいろいろな議論を経て今の曼荼羅図があると思うが、地域がどうあるべきかの見取り図として、やるべきテーマが整理されている。金融機関の規模や特徴によるが、自分たちが本来やらなければならないことがマッピングできている。
田辺氏:地域循環共生圏をどのような単位で見たらよいかを教えてください。
泉氏:単位は色々。行政区域の単位の場合もあるし、遠方と連携しているケース、近隣・流域と連携しているケースもある。重要なことは「オーナーシップ」。例えば、行政計画を事業に落とし込む中で、意思決定をしていくことが求められる。その中で首長として意思決定をできる存在がいることが重要。
田辺氏:自治体の中で意見をより多く拾っていくためには対話が重要と考えるが、どうですか。
泉氏:2年間、とある地域に出向した際、コミュニケーションができていないことはないが、行政も地域の金融機関にどういう役割を担ってもらったらよいか分かっていない部分もあった。部署ごとの縦割りや、目の前の仕事に追われている中で、地域全体を見て、それをいかにビジネスに繋げていけるかを1歩引いた眼で見えている自治体の職員は必ずしも多くはない。まずは曼荼羅図を描いてもらい、必要な資源を洗い出してもらいたい。
田辺氏:第一勧業信用組合では、年間600~700の祭りに出ていると聞いたが、全職員が出ているのか、一定の部署の職員が出ているのか。
新田氏:当然全職員。400名しか職員がいないので。1カ店当たり年間20~30のイベントに出ている。金融機関である前に、地元の組合であるので、祭りに出るのも、ゴミ拾いも本業と位置付けている。株式会社、上場企業ではなく、人と人とのFace To Faceのつながり。そこから離れたら、マネーゲームの世界に入ってしまう。
田辺氏:どのように職員の皆さんに浸透させていったか?
新田氏:私はみずほ銀行の常務だった時、東京84カ店を統括していた。その後第一勧業信用組合の理事長に就任したが、エリアはみずほの時と同じ。当組合の職員400人と面談したが、そのうちの何人かから、祭りに出てよいかを聞かれた。昔はほとんどの金融機関が出ていたが、効率化で出なくなった。昨年、祭りに3000万円を寄付、年間収益の1割程度は地元に還元している。地元の人・お客さんから職員が褒められることがモチベーションに繋がっている。Youではなく、町の一部、Weである、という感覚を培うことで、職員が明るくやる気を出してくれた。
田辺氏:今日参加いただいている地銀でもそれをやることは可能か。
新田氏:やればできる。GABV(欧州中心に展開しているサステナブルバンキングの国際ネットワークである「The Global Alliance for Banking on Values」の略称)の議長ピーター・ボーム氏が来たときに、「Purpose」や「Why」を聞かれた。この問いかけに答えられるかどうかがポイントになるのではないか。金もうけは金融機関の「Purpose」ではない。自分たちの人生の生きがい、存在意義は何なのか。多くの金融機関は残念ながら「How」「What」ばかり考えている。地域金融機関の「Purpose」は地域の繁栄しかない。メガバンクは地域金融機関とは全く性質が異なるが、第二地銀以降はたとえ上場会社だとしても地域から離れられないはず。
海外の投資家の視点に立てば、100兆円規模に満たない金融機関はマーケットに対するインパクトが足りない。小粒の金融機関、第二地銀以降は当組合を見習った方が良いと思う。その場合は単独では生きていけないので、あらゆるプレイヤーと連携していく必要がある。当組合は他の30の信用組合と連携しており、あわせて預金総額4兆5,000億円、貸出2兆円以上となる。この位の規模があれば、地方創生を動かすパワーがあるのではないかと考えている。
田辺氏:メガの立場になると思うが、金井氏はどう感じたが。
金井氏:視点は異なるかもしれないが考えは同じ。現在のビジネスモデルは限界に来ている。フィンテックに地盤を崩される可能性がある。サステナビリティという観点では、フィンテック・デジタライゼーション、サステナビリティが二大潮流だから、それをやらないと生き残れない。当社では中期経営計画を作っているところだが、会社として「Purpose」「存在意義」を考えている。インパクトをどのように作るか、インパクトクリエイティングカンパニーにならないとだめだという議論になっている。顧客本位は重要で金融の本業だが、SDGsの観点から、顧客がどのようなインパクトを与えているかの最適解を提供しないとならない。それをコントロールするのが金融機関の役目。新田氏がやられていることと同じになってくるのではないか。
田辺氏:インパクト、その先の効果を考える視点が2機関に共通していると思うが、今後融資を受ける企業に変化が出てくるか。
金井氏:それを金融機関がコーディネートしないとならない。当社はいち早く原則として石炭火力への新規融資を行わないことを決めたが、その他のメガバンクがもし融資をしなければ、どのような世の中になるのかを考えるのがインパクト思考だ。新田氏はメガと地域金融機関は性質が異なると言っていたが、メガも地域金融機関と同じ視点を持たなければ生き残りは難しいのでは。
新田氏:PRB(責任銀行原則)に署名しているトリオドス銀行は融資先・出資先を開示している。トリオドス銀行の株主・預金者は、開示された内容に使われるから、預金している。残念ながら、環境問題に対する庶民の意識・金融リテラシーに、ヨーロッパと日本とでは差がある。毎年「あなたの預金がどこに使われているかご存知ですか」というポスターを貼ると、残念ながら、どこに貸したって関係ない、利息の高いところに預金するという方が多かった。ヨーロッパでは石炭火力に融資している金融機関にまともな資産家は預金しない。金融機関だけの問題ではなく、預金者・出資者の金融リテラシーの問題がある。日本では特に年配者は金融リテラシーが低い。ただ、日本にも「高い利率はいらないので、社会課題の解決に自分のお金を使ってほしい」という若者もいる。ドイツの教育に熱心な銀行が過去赤字になったときに組合員・街の人が寄付で赤字を埋めた。サステナブルな金融機関は必要とされていて、ある程度経済的に成熟した国であれば生き残ることができる。当組合もまだその途上だが、地域のみなさんに、第一勧業信用組合が生きていてほしい、と思われる金融機関を目指したい。価値で繋がった、例えばトリオドス銀行のような金融機関がリーマンショック後、世界でステイタスを高めている。日本の金融機関もその点をよく考えなければならない。
田辺氏:過去の財務諸表だけではなく、未来に向かった、担保に依存しない事業性評価をやるべきなのか。
新田氏:評価という言葉が上から目線なのであまり好きではないが、金融機関に必要なのは、ないものに気づくこと。経営者に必要なことは、必要だけどやれていないことに気づく力。自分が今日伝えたことは、この曼荼羅図にほとんどある。曼荼羅図を全ての地域金融機関の頭取に見てもらい、自分たちに欠けているものが何なのかを知ってほしい。金融機関は自分たちの効率性ではなく、地域の未来に対して何ができるかを考えないと、「Why」に答えられない。
田辺氏:泉氏の講演で、ドイツの総合インフラ企業シュタットベルケの話があった(泉氏 資料 P8参照)。市民の8割が同企業と電力契約している。日本もそうなっていくのか。
泉氏:シュタットベルケが絶対解とは思っておらず事例の一つ。エネルギーの代金を地域のインフラとして地域還元している。日本でも見回りサービスと併せて事業展開している電力会社もある。地域ごとの課題・プレイヤーによって、エネルギー代金を何に還元していくかは異なる。残念なのは、エネルギー代金を地域内で循環させていく取組だったはずが、「地域新電力の創出」が目的化している地域が多いと感じること。エネルギー代金をいかに地域課題の解決に充てていくか、持続的な取り組みにするためにビジネスとして組み立てていくかを苦戦している地域は多い。地域金融機関には、その地域にどのような課題があり、足りない視点は何なのかの議論に入ってもらい、事業の組み立てにも加わってくれると嬉しい。
田辺氏:エネルギー以外の課題はあるか。
泉氏:少子高齢化・人材不足・担い手不足が共通課題。高齢者が増え、医療費・介護費用が増え、必要経費が膨らんでいる。人口が増えなければ税収は増えない。投資的な経費が減ると、取り組みが先細りしてしまう。そのような課題解決に効いてくるのが、地域外に出て行っているエネルギーの代金と考えている。
田辺氏:地産都消の話もあったが、新田氏の目から見て、ご自身のエリア(23区+α)の課題はどんなことがあるか。
新田氏:たくさんありすぎる。自分のエリアだけではなく、日本中を見ている。東京でも災害・貧困・外国人居住者・シングルマザー問題など社会課題は山積み。ただ、より深刻なのは地方。例えば、かなり人口減少・少子高齢化が進んでいる秋田で、秋田信用組合はバイオマス発電に間伐材を使っている。バイオマスは一石三鳥。熱を暖房に使い、身体障碍者の葉物野菜のハウスに送り、野菜を出荷。ドジョウの養殖も進めている。東京の駒形に売ることで、地方にお金が落ちる。自分たちだけで上手くいかなければ、外と繋がることも重要。
金井氏:パートナーシップはとても重要。東京と地方がパートナーシップを構築する際に金融機関同士のパートナーシップを経由するケースはあるはず。目利き機能を発揮してエクイティを入れる、ソーシャルインパクトボンドをアレンジし公的な資金を民間に振り替える、予算の制約があるとか赤字の自治体もある中で、税金を細々投入するのではなく、民間資金で一気にやってしまおうという考え方もあるだろう。地域の金融機関と連携しながら、様々なファイナンス手法の横展開ができるようにコーディネートすることが金融機関はできるのではないか。
新田氏:インドのコショウはインドで売っても安くしか売れない。ヨーロッパにもっていくから莫大な富になった。生産性を高めることは高く売ること。ホタルイカも瓶詰めして東京に持ってくるから5,000円で売れる。地方の人は自分たちの地域の価値を知らない。日本だけではなく、世界を見て、育てる金融をすることが大事。こんなところで、こんな風に売ったらいいと、道筋をどれだけつけられるかが金融機関に求められている。
田辺氏:会場から質問は受けたいと思います。
Q.ソーシャルビジネスや社会貢献活動(フードバンクなど)に携わっており、現在、関係者の献身的努力と寄付で何とか事業を回している状態。とんとんで回せる程度のビジネスモデルの事例はあるか。金融機関がお金を貸しくれるとは思えないこともある。
新田氏:事業性を確保しないとサステナブルではない。寄付・補助金で賄っているうちは、それが止まったら事業が頓挫してしまう。受益者負担でやるのか、どのようなメンバーでスクラムを組んで回しくいくか、志を持ち、価値を認めてくれる人がどこにいるかを考える。例えば北海道では、障碍者雇用のパン屋は食パンを1斤千円で販売している。いいものを作れることを見せるのは必要。難しいのは、貧困層向けにソーシャルビジネスを回す場合。受益者が負担できない場合は行政と一緒にやらないとならない。寄付・エクイティ・デッドの3つを揃えざるを得ない。お金の集め方はその3種類しかない。寄付ではクラウドファンディングという方法もある。SDGsは地域にしわ寄せしないことだけではなく、未来にしわ寄せしないことも目的としている。未来に必要だという共感を得ながらお金を集めるしかない。SDGsは子供や孫を思うことだといつも説明してる。東京ではコミュニティが壊れていて、それを再構築することが地域金融機関の役目。
泉氏:実際に地域で進んでいる取組で、シュタットベルケの取組は単体では黒字になりづらいものだがエネルギー代金を使って回し、全体最適を図っている。そのような事例が日本でも進んでいる。電力が自由化したが、地域で選ばれる電力会社になるために、価格以外の付加価値をつけることが大事。地域に欠かせないプレイヤーとして認知されれば寄付ではなく、エネルギー代金としてお金を得られる。
金井氏:例えば風車を立てて保守費用は大手に頼むと高い。しかし、地域のNPOだとかのボランティアを組み込むことで人件費を低く抑えられ事業性が高まり継続できるケースがあるかもしれない。市民から寄付を組み込むことで収益性を高め、投資家を誘引するファンドがあってもよいかもしれない。このように「思い」とリターンを自在に組み合わせられるのが金融のおもしろいところであり、既存の発想にとらわれず、それをコーディネートするのが金融機関の役目。
Q:地域課題の解決を見つけ、解決の担い手を探さないとならない。当行が所在する市でもプラットフォームがあるが、なかなか成功はしていない。成功事例があったら教えてほしい。
新田氏:成功事例はなかなかないが、おそらく市内だけでは解はない。特に「人」の問題には解はない。TRANBI(トランビ)という事業承継・M&Aプラットフォームに情報を集め、情報交換しながら、承継したい人を探し、地方で見つからない場合は東京で探すこともしている。世界全体では人口が増えているので、地球儀全体を見て、ここで働いてくれる人はどこにいるかを考えなければならない。「人」の問題は日本の中だけで解決するのは難しいが、できることがあるとすれば、東京の人をいかに地方に移動させるかが重要。副業でもよい。特に20代の女性が東京に一極集中している。若い女性が留まりたいと思えるような都市になれるか。日本の大都市の中で若い女性が流出しない街は、京都と神戸。自分たちの街をどのような場所にするか、どうしたら若い人が集まるか、どこから連れてくるかを考える必要がある。
泉氏:まだまだ完成系と呼べる成功事例はないと思っている。その中で曼荼羅図を描いて、地域に落とし込んでもらいたい。地域の課題・資源を知ってほしい。ビジョンは地域でしか洗い出せない。一つの地域だけで、課題が解決できないこともあるので、他地域との連携が必要になる。環境省でもプラットフォームをつくっている。
金井氏:環境省は省庁を越えた取り組みをしている。曼荼羅図はかなり高いレベルで網羅されている。一方で第一勧業信用組合のように深堀りをされて、地域から海外にも繋がっていくという広い視点こそが金融を変える、ということが今日皆さんに分かっていただけたと思う。金融界は全体最適ができる、産業界で唯一の業界であるということを感じた。あまり時間が残っていないので加速しないとならない。21世紀金融行動原則には283(当セミナー当時)の機関が署名をしているが、署名機関が一斉に動かないとならない時期に来ていると思う。この原則で深堀りしていきたい。
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