活動内容

2019年度環境大臣賞(地域部門)鹿児島相互信用金庫

「21世紀金融行動原則」に署名している金融機関は、7つの原則にのっとりさまざまな取組を展開しています。このような取組の裾野を広げ、先進的な取組の向上を図るため、2014年度から最優良取組事例を選定、環境大臣賞として表彰しています。また、2017年度より従来の大臣賞を「総合部門」とし、新たに「地域部門」を設置。大臣賞に準ずる優れた取組を選定し、「特別賞」として21世紀金融行動原則運営委員長賞として表彰しています。

 

2020年度最優秀取組事例の募集に先立ち、2019年度環境大臣賞 地域部門を受賞された鹿児島相互信用金庫様に、受賞対象となった事例とその後の取組についてお話を伺いました。

 

SDGs達成に向けた取組を通して実践する地域・お客さま・当金庫の共有価値の創造を目指す「そうしんCSV経営」

取組の概要についてはこちら

最優良取組事例2019年度の授賞式の模様はこちら

 

(左)白石様(右)本永様

(左)白石様(右)本永様

①自治体と連携した「奨学ローン」制度の開発

2019年12月末現在までに合計3自治体で取扱っている。2019年12月末時点販売実績は合計で、実行件数210件、ローン契約極度額が2億9,600万円。

②竹SDGs支援プログラム(竹SDGsバッジの制作)

1,300個の竹SDGsピンバッジを作成。全役職員及び薩摩川内市職員・市議会議員・本プログラムに賛同する地元企業の役職員が着用。

③制服回収プロジェクト

回収された制服等の合計は310点で、リサイクルで生じた益金は福祉医療機構「子供の未来応援機構」に寄付。

 

聞き手:事務局
担当者:本永謙介様、白石俊栄様

 

── 鹿児島県鹿児島市泉町に本店を置く御庫。取り組みについてお話をお聞かせください。

当金庫は1931年に創立された、鹿児島県内に57店舗ある信用金庫です。創立以来、金融・非金融サービスの提供を通じてさまざまな地域課題の解決に取り組んできました。2017年8月には、地域・お客さまである企業・当金庫、三者の共有価値を創造する「そうしんCSV経営」の追求を目指すことを表明しました。

 

CSV経営を実践するうえで、「持続可能な地域社会の実現」こそ三者の共有価値であり、「地域社会の抱える困りごと」の解決に取り組み、SDGsの推進を目指すことがCSVの創造につながるという発想のもと、2018年10月には「そうしんSDGs宣言」を行いました。

 

こういったことを実践につなげるためには専門組織が必要と考え、当金庫は2017年、組織内に「そうしん地域おこし研究所」を設けました。遠隔システム等を活用して、慶應義塾大学SFC研究所との連携のもと、信用金庫らしい、地域の持続可能性の向上につながる先進的な取組みを研究・開発し、地域で実践することを目的としています。

 

── 全国の信用金庫初のSDGs宣言ということでしたね。「地域社会の抱える困りごと」とは、どのようなことでしょうか。

例えば、鹿児島県の高卒者の大学進学率は非常に低く、一方で高卒者の県外就職率は全国トップです。一旦県外に就職して、そこに生活の基盤ができると、地元に戻らないケースが多く、人口減少、後継者不足、地域の担い手不足等、様々な問題が生じています。そういった「困りごと」(課題)を解決するため、自治体と連携して生まれたのが「ぶり奨学ローン制度」という商品です。2016年、長島町から導入がスタートしました。長島町は養殖ブリの出荷量日本一です。回遊魚であり出世魚のブリのように、地元で育った人たちが各地で活躍し、いずれは故郷に戻って活躍して欲しいという願いが込められています。

 

また、この奨学ローンの仕組みは富山県氷見市や群馬県下仁田町、愛媛県上島町、鳥取県智頭町など、県外のほかの自治体や金融機関でも採用され、広がりを見せています。

 

先ほど、鹿児島県は、高校を卒業すると県外に就職する人が多いというお話をさせていただきましたが、定年後の世代のUターン率は非常に高いという特徴もあります。ある調査では地元外で暮らす人たちの半数が、「仕事や所得があるのであれば、できれば地元に戻りたい」と考えていると言います。「ぶり奨学ローン」は、実は「ぶり奨学プログラム」という制度の一部分で、奨学ローンで子どもたちが外で学ぶ機会を確保しつつ、地元へ戻りたいと考える人が安心して戻って来られるよう、就職・起業を支援する統括的な仕組みとなっています。

 

── 「大崎町リサイクル未来創生プログラム」についても教えてください。大崎町は、一般廃棄物リサイクル率で2006年度から12年連続日本一だったそうですね。

はい。大崎町はかつて、ごみ問題を抱えていましたが、自治体の仕組み化と住民主導型のお取組みにより、現在のリサイクル率は現在80%を超えています。ごみの80%以上が資源として売却できるわけですから、ごみ処理にかかる費用よりも売却で得られる金額の方が大きいことから、年によって変動はあるものの1,000万円近くの益金が計上されます。住民の皆さんの努力によって得られた益金を、大崎の将来を担う子どもたちのために役立てようと、長島のぶり奨学プログラムをモデルとして、「リサイクル未来創生奨学プログラム」を実装しています。奨学ローンの利用者が卒業後10年以内に大崎にUターンした場合は、返済した元利金相当額が奨学基金から助成されるのですが、この奨学基金にリサイクルで得た収益金の一部が繰り入れられる仕組みとなっています。 

 

── 素晴らしい取り組みですね。「竹SDGs支援プログラム」も、地域の困りごとからヒントを得たのでしょうか。

はい。鹿児島県は竹林面積が国内で最も広く、成長が早い竹の群生の拡大(竹害)は深刻な地域課題となっています。薩摩川内市は、早くから地域課題である竹を地域資源として活用し、更には新たな産業振興につなげようとさまざまな取組を展開されているほか、次世代エネルギーを活用した持続可能なまちづくりを推進しておられました。その地域課題を提唱して新たなビジネスにつなげるとともに、鹿児島県内でのSDGsの普及に努めようと、薩摩川内市・薩摩川内市竹バイオマス産業都市協議会・八木竹工業㈱と連携して、竹製のSDGsピンバッジを制作しました。

 

── 環境大臣賞を受賞されたことで、何か変化はございましたか?

小泉環境大臣が竹製SDGsピンバッジを着用してくださったことで、大きなインパクトがあり、認知度が上がりました。ほかの信用金庫からの問い合わせや、一般の方から「どこで買えるのか」という質問まで……。(笑)竹害の課題を伝えるシンボルですのでもちろん販売することはできませんが、地域の方々にも地域課題への取り組みを知ってもらうきっかけができました。

 

── ご苦労された点や今後の課題を教えてください。

金融の力を借りて地域課題を解決するということは非常に重要ですが、この活動の理解が、組織内で十分に得られているかというとまだ道半ばです。受賞の有無に関わらず、職員一人ひとりのさらなる意識の向上が今後の課題だと考えています。 

 

信用金庫は、金融機関であり協同組合です。協同組合の理念はSDGsの考え方と合致しており、その実現に向けて取り組むことが役割だと思うのですが、SDGsは社会貢献活動の一環だと思われている点も否めません。こんな時代だからこそ、本来の役割に適う取組みを行うことによって、「持続可能な地域社会の実現」に繋げていけるのではないかと考えています。

 

── ありがとうございました。

(2020年9月オンラインにてインタビュー)